研究課題/領域番号 |
20K08940
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
野田 弘志 自治医科大学, 医学部, 准教授 (00382937)
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研究分担者 |
鈴木 浩一 自治医科大学, 医学部, 准教授 (70332369)
力山 敏樹 自治医科大学, 医学部, 教授 (80343060)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 多発癌 / 染色体不安定性 / セントロメア / Satellite α transcript / 脱メチル化異常 |
研究実績の概要 |
【研究目的】癌患者は、術後の残存臓器に新たな腫瘍性病変を高率に生じます。その機序は明らかではありませんが、発癌の母地「field cancerization」の関与が考えられます。この領域には、さまざまな遺伝子の異常が報告されていますが、我々はメチル化修飾に注目してきました。正常な染色体分配にはセントロメア領域のメチル化が必須で、そこから転写されるnon-cording RNAであるSatelliteαtranscript (SatA)により染色体の均等分配が司られます。 我々はセントロメア領域のメチル化異常によりSatAが過剰発現し、特定の染色体に数的異常が生じる事を明らかにしました。この変化は癌部のみならず癌の背景粘膜でも認められ、特に多発癌の背景粘膜で高値を示すことから、SatAは多発癌の「field cancerization」に関わると考えています。昨今の縮小手術の普及は異時性発癌のリスクを助長すると懸念され、その機序の解明は喫緊の課題です。SatAが関わる多発癌発生の機序を明らかにします。 【研究実績】マウスMajar SatA(mSatA)配列を搭載したレンチウイルスベクターを作成し、マウスの乳癌発生モデルを用いました。乳癌発生を促進するためDMBAを経口投与し、マウス生体の乳管内にレンチウイルスを投与したところ、観察期間内では介入群および対象群とも肉眼的には乳癌の発生は見られませんでした。そこで、マウスmSatA配列を搭載したレンチウイルスベクターでの検討を中止して、レトロウイルスベクターを作製しました。現在、このレンチウイルスベクターを用いてin vitroでの検証を行っています。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
マウスの発がんモデルを変更しました。 mSatA配列を搭載したレンチウイルスベクターでの検討を中止して、レトロウイルスベクターを作製しました。このレトロウイルスベクターを用いてマウス大腸癌細胞株であるCT26細胞およびMC38細胞株にmSatAを遺伝子導入しました。レトロウイルスの感染後、ピューロマイシン耐性となった細胞群からRNAを抽出し、mSatA発現量をRT-qPCRで確認したところ、mSatAを導入した細胞では、コントロールベクター導入細胞群に比べてmSatA発現量が有意に高いことを確認しました。mSAT 過剰発現によって細胞増殖への影響はありませんでしたが、有糸分裂異常が惹起されました。染色体不安定性の誘導に関わる有糸分裂異常を検出するために、細胞の蛍光免疫染色を行いました。Abnormal segregation、Micronucleiやanaphase bridgeなど有糸分裂異常を持つ細胞の割合は、コントロールと比較して増加しました。具体的にはAbnormal segregation とanaphase bridgeの頻度は有意に上昇し。Micronucleiでは有意差はないものの、その頻度は増加しました。以上の結果からmSatA過剰発現によって、染色体不安定性に関連する染色体分配異常の頻度が増加することが示唆されました。
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今後の研究の推進方策 |
このmSatA配列を搭載したレトロウイルスベクターを用いてin vivoでの検証を、マウスの乳癌発生モデルを用いて行います。モデルマウスの乳房からレトロウイルスベクターを用いてmSatAの遺伝子導入を行い、発生時期や数、多発及び多臓器発生の頻度、染色体コピー数の変化や遺伝子発現に及ぼす影響を評価します。 DMBA の毒性が強い場合には、DMBA1mgをゴマ油0.2m1に溶解したDMBA 溶液を経口的に6週おきの投与に変更します。mSatA の影響が強い場合は、乳癌発症により長い期間を必要とする2-amino-1-methyl-6-phenylimidazo[4,5-b]pyridine (PhIP) の経口投与も考慮します。また、C3H/HeOs系雌マウスで問題が生じた場合、FVB/NマウスでもDMBAと投与で約30週で75%のマウスに乳癌が形成される事が確認されています。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品価格の変動のため消耗品購入の繰り越しにまわします。
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