研究課題/領域番号 |
20K08948
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
原田 成美 東北大学, 大学病院, 助教 (70547413)
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研究分担者 |
石田 孝宣 東北大学, 医学系研究科, 教授 (00292318)
古本 祥三 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 教授 (00375198)
鈴木 貴 東北大学, 医学系研究科, 教授 (10261629)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アミノ酸代謝 / メタボローム解析 / LAT1 / 内分泌療法 / 化学療法 / 薬剤耐性 |
研究実績の概要 |
これまでの研究結果から、乳癌組織においては糖代謝のみならず癌特異的経路が代謝リプログラミングを促し、薬剤抵抗性を惹起する可能性が示唆された。なかでも、乳腺組織を用いて行ったメタボローム解析で癌組織でアミノ酸濃度が上昇していることに着目し、アミノ酸代謝とその輸送に関わるトランスポーター(L-type amino acid transporter, LAT1)を中心に研究を進めている。2020年度は、LAT1がER陽性乳癌における化学療法の耐性に関わることをすでに報告していたため、2021年度は内分泌療法への抵抗性について検討した。 はじめに、乳癌手術施行症例187例を用いたLAT1発現と臨床予後の関連を評価し、LAT1高発現群では有意に無病生存率 と乳癌特異的生存率が低下することを明らかにした。また、術前内分泌療法 (neoadjuvant hormone therapy; NAH)を施行した原発ER陽性乳癌症例84例を対象に、NAH前後のLAT1の発現を免疫組織化学的に評価したところ、LAT1が高発現している症例で病期は進行している傾向が見られた。さらに、細胞株を用いた基礎的検討では、アロマターゼ阻害剤 (AI)に耐性を有するエストロゲン枯渇耐性乳癌細胞株 (estrogen deprivation-resistant; EDR)でLAT1の発現は亢進しており、さらにLAT1を介して輸送される必須アミノ酸の細胞内濃度が上昇している事を示す事が出来た。一方、細胞増殖能実験では栄養枯渇条件下でのロイシン添加により増殖能は亢進し、選択的LAT1阻害剤であるJPH203を投与すると、EDR細胞株では細胞増殖抑制効果を示したことより、LAT1が内分泌療法耐性に関与することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床検体を用いた検討では、すでにLAT1発現の化学療法・内分泌療法耐性への関与を明らかにすることができ、研究は順調に進展している。また、基礎的検討でも、5種の乳癌細胞株と2種の内分泌療法耐性株(EDR1,2)を用い、MCF7(エストロゲン受容体・プロゲステロン受容体陽性、HER2陰性)、HCC38(エストロゲン受容体・プロゲステロン受容体陰性、HER2陰性)、内分泌療法耐性株でLAT1が高発現していること、さらにLAT1を介して取り込まれるアミノ酸(ロイシン、イソロイシン)の濃度が上昇していることを確認した。これらの細胞は、2020年度・2021年度に公表した論文で使用され、LAT1と内分泌療法耐性・化学療法耐性との関連性を明らかにしている。今後は、PETトレーサーでの診断法の開発に向け、これらの細胞株を利用した実験をすすめる。 また、乳癌の内分泌療法は腫瘍細胞のLAT1発現を誘導することでアミノ酸代謝のリプログラミングを引き起こし、AI耐性をもたらしている可能性が示唆され、論文を公表した(Shindo H, Harada-Shoji N, et al. Targeting Amino Acid Metabolic Reprogramming via L-Type Amino Acid Transporter 1 (LAT1) for Endocrine-Resistant Breast Cancer. Cancers (Basel). 2021 Aug 30;13(17):4375.)。
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今後の研究の推進方策 |
乳癌術後再発または転移性乳癌において、転移部位の生検を行った症例について収集する。これらの転移部位の生検検体を用いてLAT1の発現の評価を行い、臨床病理学的因子と比較検討することで、転移巣におけるLAT1発現の新規標的としての意義を見出す。 さらに、生体内でのLAT1発現を可視化する手法として、PETトレーサーを用いた実験を行う。申請時には、標的となるアミノ酸を同定し標識した新規のトレーサーを用いる予定であったが、本学RIセンター 古本祥三教授にご協力いただき、FET(同様にLAT1を介して送達される)を18Fで標識した18F-FETを用いて実験を進めていく。初めに細胞株(上述のMCF7, HCC38,内分泌療法耐性株)を用いて、トレーサーの取り込み実験を行う。次に、小動物(担癌マウスモデル)を用いてPETのイメージングを行い、生体内での評価の可能性について追求する。18F-FET-PETでのイメージングが可能となった場合は、生体内でのLAT1の機能を詳細に評価するためLAT1阻害薬であるJPH203(ジェイファーマ株式会社、日本、胆道癌でPhase II臨床試験進行中)を用い、治療前後での変化を評価する。本研究では、LAT1を治療標的・診断標的とした、新規の治療戦略の確率を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた免疫染色が、現在進行中であり、経費は翌年度への持ち越しとなる。
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