研究課題
ヒトiPSC肝芽は、様々な肝細胞特異的な遺伝子を発現するとともに、内部に豊富な血管ネットワークを有し、移植に適した特性を持つ。一方で、ヒトiPSC肝芽移植技術をB型肝炎の治療に応用するためには、ヒトiPSC肝芽にB型肝炎ウイルス(HBV)に対する感染耐性を付与する必要がある。本研究では、肝細胞機能を保持しながらHBVに対する感染耐性を示すヒトiPSC肝芽創出法を確立するとともに、ヒトiPSC肝芽を効率良く移植する手法の開発を検討している。本年度は、ヒトiPS細胞において、HBVの感染受容体および関連因子をノックアウトし、ノックアウトしたヒトiPS細胞から創出される肝芽の特性解析を試みた。ヒト肝細胞へのHBV感染においては、肝細胞の細胞表面に発現する膜タンパク質(NTCP)が感染受容体の一つと考えられている。そこで、NTCPの第一エクソン領域にSTOPコドンを挿入する為のノックイン用ベクターを構築し、ゲノム編集技術を用いてNTCPを完全にノックアウトしたヒトiPS細胞を樹立した。また、NTCPをノックアウトしたヒトiPS細胞の特性解析を行い、NTCPを欠損したヒトiPS細胞からiPSC肝芽作出が可能であることを確認した。また、ヒトiPSC肝芽の高効率な移植評価系を構築するため、重度免疫不全を背景に持つFAHラットの導入・繁殖を進め、FAH欠損ラットプールを確保した。
2: おおむね順調に進展している
本年度はヒトiPS細胞においてNTCPの完全なノックアウトを行うべく、NTCPのエクソン1に対するgRNAを作製し、切断領域直下で翻訳停止を誘導するための配列有するノックイン用ベクターを構築し、ヒトiPS細胞への導入を行った。NTCP欠損クローンを取得し、特性解析の結果、肝芽形成能を確認した。NTCPを欠損するヒトiPSC肝芽創出が可能となり、次年度以降の特性解析を計画通りに進める事が可能であることが確認された。また、移植実験に向け、免疫不全FAHラットの導入を進めた。以上より、研究は計画通りに進捗している。
本年度に樹立したNTCPノックアウトヒトiPS細胞を用いて、B型肝炎ウイルス(HBV)に対する感染評価を実施する。HBV感染阻害を実現する為に有益なHBVエントリ関連因子を検討し、NTCPノックアウトヒトiPS細胞に対して多重ノックアウトを試み、ヒトiPSC肝芽を創出しながらHBVの感染阻害効果を検討する。また、免疫不全FAHラットへのヒトiPSC肝芽の至適移植条件を検討する。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
Sci Rep.
巻: 10(1) ページ: 10293
10.1038/s41598-020-66845-6.
International Journal of Cancer
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