研究実績の概要 |
ミトコンドリアは細胞生存に重要なエネルギー源であるATPの産生の一方で種々の活性酸素種(ROS)を発生する。これに対して抗酸化作用も併せ持っており細胞内ROSレベルは適正に保たれている。しかし癌細胞のミトコンドリアは不良でありATP産生は効率の劣る解糖系に依存している(Warburg効果)。従って癌細胞のミトコンドリアはATP産性能が低下し活性酸素種(ROS)を多量に発生する。我々のグループの報告したp53標的遺伝子Mieap(Mitochondria eating protein)は、不良ミトコンドリアを排除・修復することでATP産性能を改善し、ROS発生抑止機能を持つことが示されている。更に、Mieapのヒト癌における異常や腫瘍増殖抑制メカニズムを検討し、乳癌・消化器癌でのp53-Mieap-BNIP3/NIX経路により制御されるミトコンドリア品質管理経路の破綻を明らかにした。本研究の究極の目標は、癌細胞の不良ミトコンドリア由来のROSを標的とした、革新的癌治療法の開発することである。そのために本研究は以下の点に注目して研究を継続している。 (1)Mieap導入発現に伴う細胞内代謝産物と遺伝子発現変化の網羅的解析を行い、抗ROS療法に関与する治療標的分子を同定する。 (2)癌ミトコンドリアの損傷程度を指標にした癌悪性度の新たな評価方法を確立する。 (3)ヒト臨床検体を用いた、p53-Mieap-BNIP3/NIX経路の異常を検出する。 Sano H, Futamura M, Gaowa S, Kamino H, Nakamura Y, Yamaguchi K, Tanaka Y, Yasufuku I, Nakakami A, Arakawa H, Yoshida K. p53/Mieap-regulated mitochondrial quality control plays an important role as a tumor suppressor in gastric and esophageal cancers. Biochemical and Biophysical Research Communications 529:582-589, 2020
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)乳癌細胞株を用いて、Mieap強制発現にを行い細胞内の変化(遺伝子発現変化、代謝産物の変化)について、現在メタボロームを行い、数理アルゴリズムを用いた解析を行っている。また、TCGA,METABRICといった大規模Public dataを用いて臨床検体におけるMieap発現の臨床的意義、関連因子の動態について検討している。 (2)消化器癌(食道癌、胃癌)に対するp53-Mieap-BNIP3/NIX経路の異常について臨床検体を用いて検討すると同時に、上部消化器癌におけるMieapの発現意義について検討した(下記論文) Sano H, Futamura M, Gaowa S, Kamino H, Nakamura Y, Yamaguchi K, Tanaka Y, Yasufuku I, Nakakami A, Arakawa H, Yoshida K. p53/Mieap-regulated mitochondrial quality control plays an important role as a tumor suppressor in gastric and esophageal cancers. Biochemical and Biophysical Research Communications 529:582-589, 2020
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