研究課題/領域番号 |
20K08956
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
田邉 剛 山口大学, 大学院医学系研究科, 教授 (80260678)
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研究分担者 |
浅井 義之 山口大学, 大学院医学系研究科, 教授 (00415639)
山口 奈津 山口大学, 大学院医学系研究科, 助教 (40450671)
清木 誠 山口大学, 大学院医学系研究科, 教授 (50226619)
硲 彰一 山口大学, 医学部, 教授(連携講座) (50253159)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 血中循環腫瘍細胞 / オルガノイド / 膵がん |
研究実績の概要 |
膵がんは早期転移のため5年生存率は、全がんのなかで最低の12.1%であり、転移の治療法は確立していない。免疫療法は有力な治療法候補であるが、何を標的に免疫を誘導するかが問題となる。我々はリキッドバイオプシーによるがん早期診断法開発を進めており、対象の一つである血中循環腫瘍細胞(CTC)は原発巣から血中に遊離し転移巣を形成する。本研究では、転移巣モデルとしてCTCからオルガノイドに作製し、それを標的に免疫療法を開発して転移の治療に応用するという独自の着想から、 以下3点を目的としている。 (A) CTCオルガノイドによる転移巣モデルを構築し、転移治療法開発における有用性を検証する。(B) CTCオルガノイド特異的キラーT細胞を誘導し、転移に対する免疫細胞療法を樹立する。 (C) CTCオルガノイド発現するネオ抗原を同定し、転移に対するペプチド免疫療法を確立する。 2021年度は、 (A)CTCオルガノイドの転移モデルの作製を目的として、ヒト膵がんおよび、KTC膵がんモデルマウスCTCの両方を用いてオルガノイドの作製を進めたが、樹立が困難であった。この問題を克服するため、その原因を解析した。開発する膵がん転移の免疫療法の効果を検証するために、マウス膵がんオルガノイドから樹立した膵がんオルガノイドをマウスに移植すると転移することを確認した。(B) CTCオルガノイド特異的キラーT細胞誘導法の確立を目的として、マウスモデルを用いた検討を進めた。マウス膵がんオルガノイドを、末梢血と共培養し膵臓がんに特異的に反応するリンパ球の誘導を行い、膵臓がん特異的リンパ球誘導に成功したが、再現性の改善が必要であった。その原因を空間的シングルセル解析法を用いて解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(A) CTCオルガノイドの転移モデルの作製: これまでに膵がん患者のCTCから、更に、KTC膵がん発症モデルマウスを用いて、いろいろなCTC調整法を試みたが樹立できなかった。そこで、既に作成済みのヒト膵がんオルガノイド細胞を用いて、段階的に少数の細胞からの培養条件を検討した。現在の条件では、相当数の細胞数が必要であることがわかり、培養条件の改善の必要性が明らかになった。CTCの代わりに膵がんの肝転移巣からオルガノイドを確立した。 肝転移膵がんの特徴を明らかにするために、Fluidigm社のHyperionを用いた空間的シングルセル解析法を樹立した。15種類の金属標識した抗体を用いて解析を行ったところ、肝臓における膵がん転移巣は、高度にヘテロな集団であることが判明した。 (B)CTCオルガノイド特異的キラーT細胞誘導法の確立 (A)のヒトCTCオルガノイドの代わりに、オルガノイドとの共培養でキラーT細胞誘導が可能にするために、マウスでの膵がんオルガノイド転移モデルを作製してきた。マウス膵がんオルガノイドを、転移モデルマウスの末梢血と共培養し膵臓がんに特異的に反応するリンパ球の誘導を行ったところ、膵がん特異的リンパ球が誘導された。共培養7日でCD8陽性のキラーT細胞が増加し、活性化マーカーCD69の増加から、活性化が起こっていると考えられた。しかし、膵がん特異的リンパ球の誘導の成功率を上げることができなかった。(A)の結果と併せて、膵がんオルガノイドがヘテロな集団であることが一因であると考えられた。そこで、がん特異的キラーT細胞誘導法を確立するために、大腸がん細胞株CT26を用いた系を樹立した。今後、この系との比較により、なぜ膵がんオルガノイドでキラーT細胞誘導が難しいのか、更にそれを可能にする方法を検討する。
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今後の研究の推進方策 |
(A)CTCオルガノイド作製については、少数のCTCから作製を可能にするため、CTCの分離法、培養条件の両面から、より詳細な条件検討を行う。 (B)がん特異的キラーT細胞誘導法を確立するために、大腸がん細胞株CT26を用いた系との比較により、なぜ膵がんオルガノイドでキラーT細胞誘導が難しいのか、更にそれを可能にする方法を検討する。 (C) CTCオルガノイドのネオ抗原の同定による転移を標的とした免疫療法開発に関しては、キラーT細胞を樹立せずには行えないため、以下のアプローチをとる。CTCオルガノイド作成の困難は、血中の多数のCTCのうち、転移先で増殖し転移巣を形成するのは稀であることを反映している可能性がある。そこで、CTC全体ではなく、CTCのうち初期転移巣を形成したものを標的とする着想を得た。転移巣形成に必要な遺伝子が同定できれば、CTCを用いた転移の可能性の診断にも役立つ。しかし、マウス個体で転移巣形成の初期過程の解析が困難であった。我々は最近、オルガノイド細胞を用いて1か月にわたり転移巣形成過程をライブイメージングで追跡できるミニ臓器培養系を確立した。この系で、膵管とその周囲の間葉細胞、血管と免疫細胞をもつミニ臓器を作成し、CTC(蛍光標識した膵がんオルガノイド細胞)が転移巣を形成する初期過程をライブイメージングする。その際に、蓄積して行く変異をシングルセル全ゲノム解析で同定する。同定する変異が患者CTCやDNAで検出されれば、転移を起こしやすい可能性が高い。更に、同定する変異遺伝子や異常シグナルを標的にした免疫の誘導や阻害剤は、転移の可能性を低下させることも期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はヒト膵がんCTCオルガノイド作成を中断しため未使用額が生じた。未使用額については、2022年度の実験試薬の購入に充てる。
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