研究課題/領域番号 |
20K08958
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
吉丸 哲郎 徳島大学, 先端酵素学研究所, 准教授 (80424729)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | HER2陽性乳癌 / 薬剤耐性 / 足場タンパク質 / トラスツズマブ |
研究実績の概要 |
女性にもっとも高い罹患率を認める乳がんの治療は、効果予測に基づく薬物選択が最も重要になってくる。がん遺伝子HER2が増幅しているHER2陽性乳がんは、乳がん全体の約20%を占め、高い増殖能と転移能を有した予後不良の腫瘍である。その治療薬としては、HER2の機能を阻害する抗HER2抗体トラスツズマブなどが臨床応用され、その薬物治療に大きく貢献している。しかしながら、トラスツズマブに対する耐性獲得症例も少なくなく、より悪性度の高い腫瘍となることで治療に難渋することが臨床上重大な課題となっている。これまでに、トラスツズマブに対する耐性獲得の分子機構として多くの研究が行われているが、それら分子機構に基づいた耐性の克服が可能な薬剤の開発には未だ結びついていないのが現状である。 昨年度までに、乳がん特異的足場タンパク質BIG3がHER2陽性乳がん患者の腫瘍部位でも強く発現し、BIG3を標的とするペプチドが増殖抑制とHER2シグナル分子のリン酸化抑制、HER2-HER3およびHER2-EGFRの各ヘテロダイマーに対する結合阻害を報告した。 本年度は、BIG3標的ペプチドがトラスツズマブ耐性獲得細胞株の増殖に対しても抑制効果を有することをin vitroとin vivoで示した。さらに、BIG3の局在がトラスツズマブ感受性細胞株と耐性細胞株ではまったく異なること、BIG3がトラスツズマブ耐性獲得に大きく関与する可能性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
BIG3標的ペプチドがトラスツズマブ耐性細胞株の増殖に対する抑制効果をin vitroとin vivoで示し、HER2-EGFRヘテロダイマーの阻害とトラスツズマブ耐性関連シグナルの抑制を明らかにした。さらに、トラスツズマブ耐性細胞株のBIG3の局在が、感受性細胞とまったく異なることを見出し、その現象を誘導する移行システムを解明しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
プロテオーム解析を通じて、感受性細胞と耐性細胞株で比較検討することで、HER2陽性乳がん細胞のトラスツズマブ耐性獲得におけるBIG3の機能と役割を明らかにする。また、トラスツズマブ療法耐性乳がんの臨床検体を用いた免疫組織染色を行い、各臨床情報(予後、抗HER2療法など)との相関関係を調査し、再発症例でのBIG3局在などを確認する。 さらに、BIG3はトラスツズマブ耐性細胞株のミトコンドリアにも局在することも判明しているため、ミトコンドリアBIG3がミトコンドリアROSの産生亢進に関与して細胞増殖亢進を導くという仮説を立て、トラスツズマブ耐性HER2陽性細胞株におけるROS産生と制御メカニズムの全体像を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していたトラスツズマブ耐性獲得におけるBIG3の機能と役割を明らかにするためのプロテオーム解析を遂行することができなかったため、次年度に使用額が生じた。翌年度分として請求した研究費とあわせて、その費用をプロテオーム解析に使用する予定である。
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