研究代表者は、乳がん患者において高頻度に発現亢進している足場タンパク質BIG3が、腫瘍抑制因子Prohibitin 2(PHB2)の抑制機能を喪失させ、乳がんの病態に寄与することを明らかにし、BIG3-PHB2相互作用標的阻害ペプチド(分子内架橋型stERAP)がBIG3からのPHB2遊離を促すことで、その抑制機能を活用する独創的な治療法を提唱している。本研究は、HER2陽性乳がんの治療薬トラスツズマブに耐性を獲得した難治性HER2陽性乳がんにおいてBIG3高発現症例が予後不良であることに着目し、トラスツズマブ耐性獲得におけるBIG3-PHB2複合体の機能と役割を明らかにして、耐性獲得機序に基づいた画期的な乳がん治療戦略としてstERAPの確立を目指した。 これまでに、① stERAPによるBIG3とPHB2の結合阻害が、HER2陽性乳がん細胞株およびトラスツズマブ耐性獲得細胞株の増殖を有意に抑制できること、② BIG3-PHB2複合体の細胞内局在がトラスツズマブの感受性細胞(トランス・ゴルジ網:TGN)と難治性の耐性獲得細胞(細胞膜)でまったく異なること、③トラスツズマブ耐性獲得細胞ではBIG3がEGFRと相互作用してHER2-EGFR二量体の会合に強く関与することを見出し、その結果、stERAP処理はBIG3を細胞膜から遊離させてHER2-EGFR二量体形成の阻害を導くことを示した。 本年度は、トラスツズマブ感受性細胞のstERAP処理がTGNからの浸潤や転移に関わるタンパク質の細胞外分泌を抑制できることを発見した。また、トラスツズマブ療法耐性検体を含むHER2陽性乳がんの101症例の臨床検体に対するBIG3およびリン酸化PHB2の免疫組織染色を実施した結果、細胞質および細胞膜のBIG3の発現部位や強度と予後の相関関係を明らかにした。
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