これまで愛媛大学も含めてCadaver Surgical Training(CST:ご遺体を用いた手術研修)を実施している多くの施設では、手術手技研修に適すると判断されたご遺体が搬入されたとき、大腿静脈にカニュレーションして、Thiel固定液をおよそ10L自然滴下することで固定を行ってきた。本固定方法では、学生の解剖実習で用いるホルマリン固定とは異なり組織を柔らかく保つことができるため、四肢を利用するような整形外科領域等の手術研修には非常に有用である。一方で、消化器外科領域の手術研修における腹部内臓については、特に肝臓,膵臓,胆道,脾臓などは灌流が不十分のため固定が良好でなく、実習の際に被膜下組織が融解していることもしばしば見られる。 本研究は消化器外科手術研修のために、最も適した腹部内臓の固定方法を開発することを目的とする。固定液の灌流ルートを大腿動脈からとするなど固定液の注入法・種類を工夫することで、腹部内臓を手術手技研修に最も適した固定状態とすることを目指すものである。 しかし、昨年度も新型コロナウィルス感染拡大のため、研究活動が制限され、新しく提供いただいたご遺体の最初の固定段階での研究ができなかった。そこで、その代わりに脳死臓器移植の際のドナーの臓器摘出手技についてご遺体を用いて研修を行い、その際に開腹後腹部大動脈から保存液を流し、下大静脈から脱血する手技を行い、腹部臓器の灌流状態の観察を行った。例えば肝臓に関しては、この方法によりwash-outがより良好に行えることが確認された。このことから、最初の固定の段階において、Thiel固定液を注入する経路を大腿動脈からとし、同時に大腿静脈から脱血を行うことにより固定液が体内に広く行き渡ると予想される。
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