腫瘍内不均一性は、がんの悪性化および治療抵抗性の重要な要因となることが知られている。マウスモデルを基盤として、不均一な乳がんの根治につながる免疫治療法の分子基盤および分子機構を解明したいと考えた。これまでに、ヒト由来の異なる2種類のトリプルネガティブ乳がん細胞株を混合して、免疫不全マウスの乳腺組織に移植することによって不均一ながん組織を構築した。このxenograft(異種移植)マウスモデルに加え、よりヒトに近い腫瘍免疫系を反映したシンジェニック(同系移植)マウスモデルの構築を行った。これは、免疫系が保たれた同系マウスへのtumor-initiating cellsの移植に基づくものであり、免疫細胞などのがん周辺微小環境とがん細胞との相互作用を解析することが可能である。構築したシンジェニックマウスモデルが、CDX (cell line-derived xenograft)やPDX(patient-derived xenograft)に代わる、もしくは補完可能な非臨床実験モデルとなりうると考えている。 がん周辺微小環境によって肺がん細胞がsolid型からacinar型へと変化し、この現象が肺腺がんの病理組織学的な不均一性に寄与する可能性について報告した。これらは構築した肺腺がんシンジェニックマウスモデルにおいても確認できた。また、構築した胆管がんシンジェニックマウスモデルにおいて形成された腫瘍組織は、がん細胞の他に線維芽細胞や免疫細胞を含む間質に富んだ不均一な腫瘍組織であり、ヒト胆管がんの病理組織像に酷似していた。そこで、マウスとヒトの腫瘍組織の H&E 染色画像を用いて機械学習分析を行い、構築したマウスの腫瘍とヒト胆管がんの類似性について報告した。さらに、不均一な腫瘍組織内において、がん細胞と線維芽細胞の相互作用が腫瘍免疫抑制に関わる可能性について考察し報告した。
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