研究課題/領域番号 |
20K08970
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
風間 宏美 東京医科大学, 医学部, 助手 (00339350)
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研究分担者 |
川原 玄理 東京医科大学, 医学部, 准教授 (40743331)
宮原 か奈 東京医科大学, 医学部, 講師 (90532391)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 乳癌細胞 / 小胞体ストレス / プロテアソーム / HDAC6 / アグリソーム / ユビキチン / 活性酸素 |
研究実績の概要 |
難治性乳癌治療を目的として、乳癌細胞株MDA-MB231、MDA-MB468、SKBR3に、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤であるリコリノスタット(RCS)(HDAC6に対する選択性が高い)と、プロテアソーム阻害剤ボルテゾミブ(BTZ)を同時添加した。その結果、全細胞株で単剤添加と比較して相乗的な殺細胞増強効果を認めた。この効果はHDAC6の特異的阻害試薬TubacinとBTZとの併用でも同様に観察された。Annexin-V陽性/PI陰性細胞の出現ならびにcaspase-3の活性化が弱いことから、古典的アポトーシス経路を介さない細胞死誘導が示唆された。また、ERAI-XBP1-Venusプローブを用いた小胞体(ER)ストレス経時的定量解析法でも、両薬剤併用で顕著にストレス負荷が増大し、それに伴う細胞死の増強とERの膨化も観察された。このERの膨化は、透過型電子顕微鏡による観察においても確認された。ERストレス負荷を示すタンパク質GRP78、p-PERK, p-eIF2αの発現も上昇していた。RCSとBTZの併用によりROS産生が顕著に上昇したが、ミトコンドリアに由来しないROS産生がMitoSOX解析から示された。さらに、ROSのscavengerであるN-acetyl cysteineおよびglutathione ethyl esterの存在下では、ROS産生、ERストレス負荷、殺細胞増強効果の全てがほぼ完全にキャンセルされた。また、de novoタンパク質合成を抑制するシクロヘキサミドを同時添加すると、2剤併用によるERストレス、ROS産生、および殺細胞増強効果は全て抑制された。以上より、両薬剤併用において、翻訳に伴う小胞体内のROS産生亢進とERストレス負荷が相互に連関して、強力な癌細胞死を誘導していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
乳癌細胞株にプロテアソーム阻害剤であるボルテゾミブとHDAC6阻害剤であるリコリノスタットを同時に作用させることで、相乗的な殺細胞増強効果が誘導できることを発見した。また、その分子基盤としてROSの産生亢進とERストレス負荷増大があることを明らかにしたことは大きな進展と考える。本研究計画立案の当初は、アグリソーム形成を治療標的することでERストレス負荷を介した乳癌細胞死を誘導することを意図したものである。また、その研究過程でアグリソーム形成阻害に関わると考えられるHDAC6阻害剤リコリノスタットが選択された。しかし、実際に両薬剤を添加後に、アグリソーム形成をモニタリングしたところ、ERストレスが増強されている様子が見られるが、アグリソームの形成阻害と細胞死誘導に相関性が見いだせなかった。そこで計画を変更し、両薬剤の併用がどのようにERストレスを増強し、細胞死を強く誘導するのか、そのメカニズムの解明を試みる実験を行うことにしたため、遅れが生じている。今後は全体の研究計画を変更して、薬剤の併用によりどのようにROSが産生され、ERストレスが増強されるのか、そのメカニズムに関与する遺伝子の同定を試みる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
乳癌細胞株MDA-MB231にプロテアソーム阻害剤ボルテゾミブ(BTZ)とヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6) 阻害剤リコリノスタット(RCS)を同時添加すると、ROS産生、ERストレス負荷を介した強力な殺細胞効果が誘導できることを明らかにした。ROS産生によるERストレス負荷の増強の原因を明らかとするため、CRISPR/Cas9スクリーニング法を導入し、その原因となる分子の同定を試みる。そのため、ERストレス負荷をVenusシグナルへと変換し観察を容易にできるMDA-MB231(XBP1-Vesus)細胞を用いる。XBP1-Venus細胞へCRISPR/Cas9ライブラリーウィルスを感染させ、その細胞にBTZ+RCS処理を行う。薬剤処理後、生き残った細胞をセルソーターにて解析し、Venusシグナル(ERストレスの指標)が低下した細胞を回収し、発現しているguide RNAの配列を次世代シークエンス解析にて同定する。これにより、どのような遺伝子のノックアウト(KO)により薬剤処理を行ってもERストレス負荷が増強せず細胞が生き残ったか明らかにすることができる。一方で、生き残ったがVenusシグナルの強い細胞集団は、ERストレスの減弱だけではなく細胞死に関わる遺伝子群がKOされたために生存した細胞と考えられる。このスクリーニングによって、薬剤処理からERストレス増強までを結ぶシグナル経路に関わる遺伝子群を選定する。ここで得られた遺伝子群をノックアウトしたMDA-MB231(XBP1-Vesus)細胞株を作成し、2剤併用によるERストレス負荷ノがキャンセルされることをERストレス経時的定量解析法で確認する。その後、レスキュー実験としてノックアウトした細胞に、遺伝子を戻した場合、再びERストレス負荷が増大されることも確認することで、関連遺伝子群を同定する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19による研究活動の制限により、共同研究先とのゼブラフィッシュを用いたin vivoにおけるERストレスのモニタリングおよび薬剤のスクリーニング実験が計画通りに進まなかった。代わりに所属の研究室で進められるin vitroの実験を中心に行った。当初の計画ではアグリソーム形成を阻害することでERストレス負荷を介したアポトーシス誘導が起こると予想していたが、薬剤添加後アグリソーム形成阻害のモニタリングを行ったところ、薬剤添加によるアグリソームの形成阻害と細胞死の間に相関が得られなかった。そこで、ERストレスによって細胞死誘導が起こるメカニズムの解明を別の視点から試みる実験を行うことにした。そのため当初使用する予定だった、金額との間に差額が生じたり、実験スケジュールの遅れが生じた。繰り越した予算は、次年度予算として次世代シークエンスの外注や、試薬や消耗品の購入代として使用する予定である。
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