研究課題/領域番号 |
20K08981
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
角舎 学行 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 講師 (20609763)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 乳癌 / 癌幹細胞 / スフェロイド / 薬剤感受性 / 効果予測 |
研究実績の概要 |
癌幹細胞は自己複製能と多分化能を有する細胞であり、癌幹細胞を起源として癌が発生すると考えられている。癌幹細胞は、わずか100個の細胞数でも免疫不全マウスへの移植により造腫瘍能を示すとともに、薬剤に抵抗性でもある。そのため、癌における薬物治療の真のターゲットは癌幹細胞であり、癌幹細胞の薬剤感受性を知ることは癌の根治のためには非常に重要である。 我々は、乳癌組織から乳癌幹細胞を選択培養する手段として、スフェロイド培養を試みており、これにより得られた乳癌組織由来の癌幹細胞に関する研究を行っている。まず、乳癌幹細胞を選択的培養するため、乳癌組織の生検検体もしくは手術検体を酵素処理にて細胞単離後に、増殖因子を含む超低接着培地で培養した。これにより選択培養された細胞が乳癌細胞かどうかを確認するためにGATA3染色を行い、全てが乳癌細胞であり間質細胞やリンパ球、血球などが生存してないことを確認した。続いて、ホルモンレセプターマーカー、幹細胞マーカー、上皮系または間葉系マーカーによる病理学的検討を行った。 乳癌幹細胞の表面マーカーとしてCD44+/CD24-が知られているが、乳癌組織より樹立した14症例のスフェロイドで検討したところ、CD44+/CD24-で表現される細胞の割合は原発巣と比較して増加していた。このことにより、スフェロイド培養により乳癌幹細胞が選択的培養されることが確認できた。ホルモンレセプターに関しては、原発巣でホルモンレセプター陽性であった12例中、スフェロイド培養後でも陽性であったのは4例であり、8例は陰性化していた。また、乳癌幹細胞は上皮間葉転換を起こしていることが知られているが、我々の研究でも間葉系マーカー陽性例が14例中10例であった。 この結果から、我々のスフェロイド培養により患者の乳癌組織から乳癌幹細胞を選択的な培養ができることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究の進捗状況は概ね順調であり、これまでのところ、我々の予想通りスフェロイド培養により乳癌幹細胞マーカー陽性の癌細胞を選択的培養できている。既に約20症例においてスフェロイド培養を行なったが、ほぼ全ての症例でスフェロイドを回収できた。手技の確立により、患者ごとの乳癌幹細胞を得ることができるようになった事は大きな進歩であり、今後の研究ステップへと進むことができる。今までのところ、この手技を安定して行えるのは、国内でも2施設しかないため、今後の成果が期待できる。 しかし、いくつかの問題点もまた明らかになった。一つ目は、患者組織からの乳癌幹細胞の選択的培養により採取できるスフェロイドの量が期待したほど多くないことである。スフェロイドは4週間ほどまで順調に増加していくが、スプリットして撒き直してもそれ以降の増加が止まってしまうことや、そもそも研究用に採取させていただける量が多くないことなどがある。そのため、当初は、免疫染色以外にも遺伝子解析やマウスへの移植実験にも用いる予定であったが、同一の症例で乳癌幹細胞性の証明や遺伝子解析、薬剤感受性の実験までを行うことは、いろいろ工夫がいると考えている。幸い、スフェロイド一つで経時的な薬剤感受性を測定できる実験系が使えることがわかり、現在、手技を確立しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、E R陽性H E R2陰性乳癌に絞って症例を集積していく予定である。その理由として、他のサブタイプでは術前化学療法を行うことが多いため、様々な実験に用いるのに十分な量が採取できないからである。まずは、大量に組織を採取できるE R陽性H E R2陰性乳癌において、(1)乳癌幹細胞性の証明、(2)乳癌幹細胞の遺伝子プロファイルによるグループ分類、(3)スフェロイドを用いた薬剤感受性テスト、(4)スフェロイドをマウスに移植培養することによる多分化能の証明までを同一症例で行っていく予定である。症例数は20例を目標にしており、これにより我々のスフェロイド培養により患者の乳癌組織から取り出した細胞が多分化能をもつ乳癌幹細胞であることや、抗エストロゲン薬などにより薬剤感受性テストが簡便に行えることなどを証明できる。 次のステップとして、術前化学療法を行うことが多いH E R2陽性乳癌やトリプルネガティブ乳癌において、同様な薬剤感受性テストを術前化学療法薬剤で行い、スフェロイドにより化学療法の効果予測ができるかどうかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は、コロナ感染症の蔓延により研究室への立ち入りも大幅に制限され、思うように実験を勧める時間が取れなかった。そのため、実験に用いる試薬や培地、マウスなどの使用も大幅に減った。また、国際学会への参加もできなかったため、旅費なども生じなかった。令和3年度は、前年に出来なかった実験を取り戻すべく、次年度使用額を使って進めていきたいと考えている。
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