研究課題
癌細胞をとりまく腫瘍間質において線維芽細胞は、癌細胞や周囲の免疫細胞等との相互作用により活性化され、癌関連線維芽細胞(Cancer associated fibroblast: CAFs)として様々な液性因子を分泌し癌進展に関わることが知られている。一方で、切除不能な腹膜播種形成において、CAFsがどのような役割を果たすかについては分かっていない。本研究の目的は癌関連炎症下で活性化したCAFsの解析により、腹膜播種進展におけるCAFsの意義を明らかにすることである。現在までに、in vitroにおける実験とRNAシーケンシングを用いた網羅的解析から、炎症性サイトカイン刺激で老化したCAFsがSASP因子を一定期間にわたり分泌・維持していることが分かった。そのメカニズムとして炎症刺激によりポリコームタンパク質群でメチル化活性を担うEZH2の発現低下が起こり、それに伴ってH3K27が脱メチル化されることをChIPシーケンシングによって同定した。さらに進行胃癌患者の腹水細胞において、実際にSASPを呈する老化CAFsが存在することをシングルセル解析により明らかにした。今後はin vitroで得られた結果に基づいて、in vivoにおいて生体レベルでの検証を行う予定とする。その際、CAFsからのSASP因子により癌細胞のSTAT3リン酸化が起こることから、JAK-STAT阻害剤(WP1066)を用いた治療実験まで行う予定である。得られる研究成果は腹膜播種転移巣のCAFsによって活性化するシグナルをターゲットとした分子標的の創出につながり、臨床的意義は大きいと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
研究計画をもとに理由を説明する。①胃癌進展に関わるCAFs由来SASP因子の検討:炎症性サイトカインで刺激したCAFsにおいてRNA シーケンシングを用いた網羅的解析を行い老化関連遺伝子、SASP関連遺伝子がenrichしていることを確認した。②CAFsにおけるヒストン修飾の検討:EZH2の過剰発現系を作成し、炎症性サイトカイン刺激によるSASP因子の発現変化を確認した。さらにCAFsがSASP因子を一定期間にわたり分泌・維持するメカニズムを炎症刺激により起こるEZH2の発現低下に伴ってH3K27が脱メチル化されることをChIPシーケンシングを用いた解析によって同定した。③胃癌細胞内シグナルの検討:炎症性サイトカインによってSASPを誘導した老化CAFsの培養上清によって増殖能を高めた胃癌細胞においてJAK-STATシグナルが活性化していることを同定し、JAK-STAT阻害剤(WP1066)を用いて増殖を抑制できることをin vitroで確認した。④胃癌切除検体や癌性腹水を用いた検討: 臨床検体における候補分子および下流シグナルの発現を確認した。さらに進行胃癌患者の癌性腹水サンプルを用いて、シングルセル解析を行い、腹水中にも老化CAFsが存在し、SASPを呈していることを確認した。⑤In vivoモデルによる検討:In vitro で得られた結果について胃癌細胞株による腹膜播種モデルマウスを用いた検証を行っているところである。
現在はin vivo実験を行いながら、論文作成中である。
当初予定していた旅費予算を使用する機会がなかった為。来年度に合算して使用できる見込み。
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Cancer Science
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