研究課題/領域番号 |
20K08989
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
山口 博紀 自治医科大学, 医学部, 教授 (20376445)
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研究分担者 |
北山 丈二 自治医科大学, 医学部, 教授 (20251308)
佐田友 藍 自治医科大学, 医学部, 助教 (40528585)
伊藤 大知 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (50447421)
相澤 健一 自治医科大学, 医学部, 准教授 (70436484)
宮戸 秀世 自治医科大学, 医学部, 講師 (90813163)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 腹膜播種 / 腹腔内投与 / 免疫療法 / 薬物動態 |
研究実績の概要 |
腹膜播種に対する免疫チェックポイント(IC)阻害薬効果は明らかではない。免疫能を有するマウスの胃癌腹膜播種モデルを作成し、IC阻害抗体の全身投与と腹腔内投与を施行して、播種抑制効果とその免疫学的機序を明らかにすることを目的とした。 (1)C57/Bl6マウスの同系胃癌細胞株YTN16をマウス腹腔内に投与し、In vivo selection法にて腹膜高転移株YTN16-P2を作成した。YTN16-P2は、In vitroでは親株と比較して増殖能、浸潤能が20~30%程度高く、PD-L1より高率に発現していた。また、soft agar内での増殖性が良く幹性が高く、1x10(6)個を腹腔内投与すると2週目には多数の腹膜播種を来すことが確認された。 (2)YTN16P2を腹腔内投与後7日目から3日毎に計4回、抗PD-1抗体またはIsotypecontrol抗体を腹腔内または尾静脈から投与し、18日目に安楽死させ腹膜播種数を観察すると、腹腔内投与、全身投与ともに、播種数は対照群と比べて約半分程度に減少していた。また、腹腔内洗浄細胞を回収し、flowcytometryにて免疫細胞の割合を検討すると、抗PD-1抗体を投与群では、CD4(+)やCD8(+)のTリンパ球の割合は有意に増加し、CD11b(+)Gr-1(+)のGranulocytic-MDSC(G-MDSC)は半分以下に低下していた。また、腹膜播種巣の切除検体の免疫染色にて、PD-1抗体で治療した腫瘍内に浸潤したCD8(+)T細胞の頻度は高く、G-MDSCは低い傾向を認めた。PD-1抗体は腹腔内および播種巣局所におけるがん免疫微小環境に変化をもたらし、腹膜播種に対しても抑制効果を発揮することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、免疫能を有するマウスを用いて同系胃癌の腹膜播種モデルの作成に成功した。この動物モデルを用いて、PD-1抗体を腹腔内投与すると、腹膜播種に対してどのような治療効果を示すのか?という初期の課題に対する十分な回答が得られた。また、IC阻害抗体の腹腔局所の免疫応答に与える影響についても、PD-1抗体投与後の腹腔内液および播種巣内の免疫細胞の割合の変化も確認することができた。一方、全身投与と腹腔内投与との間で播種抑制効果に顕著な差を認めなかった。この点については予想した結果と相違があり、今後の検討課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
(1)PD-1抗体による局所免疫応答の変化の検討: PD-1抗体で治療後のマウス腹腔内液から、液磁気ビーズ法を用いてT細胞を分離し、CD3抗体刺激による増殖能、IFN-gamma, perforin, granzyme 産生能をタンパク、mRNAレベルで測定する。また、播種組織内浸潤リンパ球を分離し、IL-2の存在下に培養後、YTN細胞を標的細胞として細胞障害活性をカルセイン法にて測定する。また、腹腔内マクロファージを分離し、サイトカイン産生能を測定するとともに、健常マウス由来T細胞と混合培養しT細胞活性化能を検討する。これらの結果について対照群と比較検討し、PD-1抗体が腹腔内、播種巣内に及ぼす免疫応答の変化を明らかにする。 (2)PD-1抗体の全身および腹腔内投与後の薬物動態の検討:このマウスモデルで、PD-1を全身および腹腔内投与し、1,3, 12, 24,48時間後にマウスを犠牲死させ、血液、腹腔内液、腫瘍組織抽出液を採取し、質量分析を用いて抗体濃度の経時的変化を定量し、播種巣内の濃度推移の違いを明らかにする。また、これらの抗体を生体内で安定性の高い蛍光試薬FAM-Xにて蛍光標識し、同様の方法で投与後、播種病変を採取、凍結連続切片を作成し、蛍光顕微鏡観察下に腫瘍内分布を観察、播種巣内の薬物分布の相違を明らかにする。さらに、血管、細胞障害性リンパ球、制御性T細胞、マクロファージ、MDSCを、異なる色素で標識したモノクロナル抗体で多重染色し、薬剤の空間的分布と浸潤免疫細胞、血管構築の変化の違いを検討する。 (3)新規抗体製剤の作成と播種抑制効果の検討:PD-1抗体をハイドロゲルで封入した徐放性薬剤を作成し、上記のマウスモデルで、同様のスケジュールで腹腔内または尾静脈から投与し、18日後の腹膜播種数を観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染による緊急事態宣言に伴い、令和2年4/9から6/29日まで動物実験センタ―での研究実施が不能になったため、予定していたin vivo実験が一回少なくなり、30万余の余剰金が生じた。未使用額については、2021年度物品費として使用予定である。
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