研究課題/領域番号 |
20K08990
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
藤田 恵子 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (80173425)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 肝芽腫 / 細胞膜ナノチューブ / がん微小環境 / がん悪性化 |
研究実績の概要 |
細胞間は、サイトカインなどタンパク質性因子によるシグナル伝達の他、細胞外小胞によってコミュニケーションがとられている。一方、新しい形の細胞間コミュニケーションツールである細胞膜ナノチューブ(membrane nanotube,tunneling nanotube, TNT)は、離れた細胞間を直接結合し、細胞間の物質輸送やシグナル伝達等を担っている。 がん細胞は、周囲の細胞と活発にコミュニケーションをとり、生き延びるために適した環境「がん微小環境」を構築しようとする。ヒト肝芽腫における微小環境の特性について明らかにする研究の一環として、肝芽腫細胞間における細胞膜ナノチューブの構造ならびにその機能的特徴について検討した。 肝芽腫細胞株(JCRB0401, HUH-6 Clone 5)を用いて培養実験を実施した。肝芽腫細胞にアクチンをベースとする種々の構造を呈した細胞膜ナノチューブが形成されることを確認した。 細胞の分裂・増殖に必須の物質であるポリアミンは、がん細胞など増殖が盛んな細胞内で過剰に生産され、がん細胞の転移を促進するとされている。細胞膜ナノチューブを伸長している細胞にポリアミンの反応が認められた。 また、細胞増殖マーカーとして利用されているKi-67は、細胞周期に関連する分子の1つであり、休止期(G0期)を除く、増殖過程(G1期, S期, G2期, M期)のすべての細胞核に発現するとされる。Ki-67が高値であることは、悪性度が高く、再発しやすく、予後が悪いことを示す。免疫染色の結果、細胞膜ナノチューブで連結された細胞の核内にKi-67の反応が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は細胞膜ナノチューブによる物質輸送と肝芽腫細胞の悪性化の関係について検討した。実験の結果、細胞増殖マーカーとして利用されているKi-67、ならびに、がん細胞など増殖が盛んな細胞内で過剰に生産され、がん細胞の転移を促進するとされているポリアミンの発現と細胞膜ナノチューブの関係について、免疫組織学的手法を用いて解析し、がんの悪性化との関係を明らかにすることができた。 実験の結果は日本解剖学会総会・全国学術集会で発表した。なお、当初は大阪での開催予定であったが、コロナ禍のためWeb開催となり、実際に学会場にて発表・討論することはできなかったが、Webにてこれらの結果を発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
申請者は小児肝臓の悪性腫瘍で罹患率の高い肝芽腫の新たな治療法開発のために、培養実験を用いた基礎的な面から肝芽腫の病態解明の研究に取り組んできた。とくに、離れた細胞間の物質輸送やシグナル伝達をになう「細胞膜ナノチューブ」と呼ばれるチューブ構造に注目し、その構造と機能の解析を進めた。細胞膜ナノチューブを介して、複数の細胞間で複雑で特異的なメッセージの伝達が可能になり、がんが増殖し、がん細胞の悪性化が進むと考えられる。2022年度も、肝芽腫の微小環境をターゲットとした新たな治療法開発のため、肝芽腫細胞間をつなぐ細胞膜ナノチューブと微小環境の特性を解明する研究を推進したい。本研究の目的である、① 細胞膜ナノチューブの構造と役割、② 細胞膜ナノチューブによる物質運搬と肝芽腫細胞の悪性化の関係、③ 肝芽腫幹細胞と細胞膜ナノチューブの関係の解明を進めていきたい。 2021年度に引き続き、1)細胞膜ナノチューブによって運搬される物質によりがん細胞は悪性化するのか、2)細胞膜ナノチューブは肝芽腫幹細胞とがん細胞を連絡するのか、という2点に焦点を絞り、実験を実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は2021年度に引き続き、光学顕微鏡により観察した同一試料を電子顕微鏡で観察する新しい観察法、光-電子相関顕微鏡法(CLEM)を用いて、走査型電子顕微鏡(SEM)による細胞膜ナノチューブの構造解析を行う。SEMの観察に際し、試料が非常に壊れやすいため、種々の工夫を考え実験を進めている。2022年度は試料の冷却を行うための特別な試料台を発注予定である。現在、その構造を検討中である。業者への特別注文であるため価格未定であり、2021年度の予算の一部を2022年度に使用するように変更したので、「次年度使用」が生じた。 また、当初は「旅費」の支出を計上していたが、コロナ禍のため学会がWeb開催となり、旅費支出はゼロとなっている。 さらに、2022年度も培養実験器具、免疫染色用薬品(抗体など)の購入を計画している。
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