研究課題/領域番号 |
20K08995
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
杉谷 巌 日本医科大学, 大学院医学研究科, 大学院教授 (50465936)
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研究分担者 |
石橋 宰 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (70293214)
軸薗 智雄 日本医科大学, 医学部, 講師 (10465312)
吉田 有策 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (80722876)
呉 壮香 日本医科大学, 医学部, 助教 (40617792)
長岡 竜太 日本医科大学, 医学部, 助教 (90763235)
眞田 麻梨恵 日本医科大学, 医学部, 助教 (80809541)
銭 真臣 日本医科大学, 医学部, 助教 (00838633)
數阪 広子 日本医科大学, 大学院医学研究科, 研究生 (90838632)
松井 満美 日本医科大学, 大学院医学研究科, 研究生 (30838644)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 甲状腺乳頭癌 / 過剰診断・過剰治療 / アクティブ・サーベイランス / 患者報告アウトカム研究 / 分子マーカー |
研究実績の概要 |
低リスク微小乳頭癌の過剰治療予防策として提唱された積極的経過観察(Active surveillance:AS)について、治療を受ける患者側の視点から健康関連QOLを評価した患者報告アウトカム(Patient-reported outcome: PRO)研究を継続している。本研究はすでにASまたは手術を受けている患者を対象とする横断研究部分と、新しく低リスク微小乳頭癌と診断された患者を対象とする縦断研究部分から成る。 横断研究部分について、1995年から2019年までに低リスク微小乳頭癌の診断を受け、管理継続中の282人の患者に対するPRO評価を行い、データの確認、統計解析を行った。管理方針はAS249例、手術33例(内視鏡手術9例を含む)であった。包括的QOL評価尺度としてSF-36v2、疾患特異的QOL尺度としてVisual Analog Scale (VAS)、不安尺度として新版STAIを用いた。女性が246例(87%)、平均年齢は49.9歳、治療開始からの経過年数の中央値はAS群7.9年、手術群4.0年であった。手術群に比較して、AS群はSTAIの状態不安(評価を行った時点での不安)、特性不安(もともと不安になりやすい特性)とも有意に良好であり、SF-36v2における「精神的側面のQOLサマリースコア」も有意に良好であった。さらに、SF-36v2の下位尺度8項目については、「社会生活機能」を除く7項目で、AS群は国民標準値を上回った。VASでは、手術群はAS群よりも頸部手術関連症状が不良であった。さらに、AS群における多変数解析の結果、特性不安と経過観察期間が状態不安と有意に相関することが確認された。経過観察期間が5年以上の患者は5年未満の患者に比べ、有意に状態不安が軽減した。 縦断研究部分も2020年4月より開始しており、すでに100例を超える患者を登録した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
PRO研究の横断研究部分についてはデータ解析を終了し、2022年6月の日本内分泌外科学会総会、2022年8月の国際内分泌外科学会に演題採択された。現在、英語論文作成中である。 縦断研究部分についても、2020年4月より症例集積を開始、これまでに約100名の患者を登録した。管理方針決定時点で第1回の調査を行い、以降6ヶ月目、1年目、2年目、3年目、4年目、5年目に調査を行う予定である。症例集積は順調だが、当然ながら長期のフォローアップ期間を要するため、研究完了には時間がかかる。 また、微小乳頭癌の自然史の解明を目的とした、進行する微小癌を判別する分子マーカーの探索研究については、具体的な研究方法について整理し、実験室の整備が終わり、順次進めているが、やや遅延している。これまでに手術を行った乳頭癌の凍結標本、ホルマリン固定標本から腫瘍DNAおよび腫瘍RNAの抽出方法を検討した。乳頭癌の予後マーカーになりうるとされるBRAF V600E変異、TERT promoter遺伝子変異およびmicroRNA発現(miR-221/222, miR-146bなど)についての条件検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
PRO縦断研究部分について、引き続き時間経過とPROの関連性等について解析するために症例、データを集積していく。 また、進行する微小乳頭癌を判別する分子マーカーの探索研究においては、2021年に本学大学院に入学した大学院生の協力も得て、これまでに手術を行った乳頭癌の凍結標本、ホルマリン固定標本を用いて、年齢、腫瘍の石灰化の強弱、血管密度の多寡と石灰化に関係するとされる因子や血管増生に関与する各種増殖因子の蛋白質および遺伝子の発現について、免疫組織化学的および分子生物学的に確認するところから始めて行く予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で、Web開催となった学会が多く、旅費が低く抑えられた。2022年には国際学会参加も予定しており、助成金を使用したい。
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