研究課題/領域番号 |
20K09000
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐々木 勝則 北海道大学, 医学研究院, 学術研究員 (60336394)
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研究分担者 |
平野 聡 北海道大学, 医学研究院, 教授 (50322813)
七戸 俊明 北海道大学, 医学研究院, 准教授 (70374353)
土川 貴裕 北海道大学, 大学病院, 講師 (50507572)
中村 透 北海道大学, 医学研究院, 助教 (70645796)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | CD40 / CD154 / MMP-9 / 食道がん / 血小板 |
研究実績の概要 |
本研究は、CD40陽性食道扁平上皮癌(ESCC)が産生・分泌するMMP-9が腫瘍周囲の細胞外マトリックスを消化・分解する作用のみならず、活性化血小板に作用し、CD154(CD40 ligand)のshedding に寄与することで、ESCC細胞と血小板との間におけるCD154とMMP-9が介在するmutual paracrine effectによる癌悪性化のスパイラルが存在することを証明する研究である。2年目は4種類のESCC細胞株(CD40陽性株2種類、CD40陰性株2種類)を可溶化型CD154 (sCD154としてMEGACD40Lを用いた)で刺激し、細胞が分泌するMMP-9の血小板への影響に焦点を合わせた。MEGACD40Lで刺激されたESCC細胞が分泌するMMP-9はgelatin zymographyの分析結果からその形状が不活性型のproMMP-9であったことから、ESCC細胞の培養上清に有機水銀化合物APMAを添加し、不活性型MMP-9を活性型MMP-9に変換処理した。この培養上清をthrombinで活性化した血小板に添加し、血小板の培養上清中にsheddingされるsCD154量をELISA(Human CD40 Ligand /TNFSF5 Quantikine ELISA Kit, R&D systems)法にて定量した。結果、MMP-9未刺激の状態でも活性化血小板の培養上清中には275pg/ml のsCD154がsheddingされていたのに対して、MMP-9活性化処理を施したESCC細胞培養上清を添加した活性化血小板の培養上清中のsCD154量は725pg/mlと、MMP-9未刺激の系の2.6倍量のshedding量であった。癌細胞由来MMP-9が血小板のCD154 のsheddingを助長することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は、血小板由来のsCD154がESCC細胞表面のCD40に結合しMMP-9の産生を誘導し、分泌されたMMP-9が(1)腫瘍周囲の細胞外マトリックスを消化・分解する作用に加え、(2)活性化血小板に作用しCD154 のsheddingを促進する新しい作用メカニズムの存在を想定した。このように、CD40陽性ESCC細胞と血小板との間を液性因子のsCD154とMMP-9が介在するmutual paracrine effectが、CD40陽性ESCCの予後不良の要因ではないかと考えた。ESCC細胞の培養上清中のMMP-9が活性化血小板に作用し、血小板からのCD154のsheddingを促進することを示すことができ、2年目に予定していた研究項目を計画通り進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
3年計画の最終年度は、(A)血小板由来soluble CD154 (soluble CD40 ligand)が直接CD40陽性ESCC細胞に作用し、がん細胞から分泌されるMMP-9の新たな生物活性の存在を示す。末梢血より分離した血小板をthrombinで活性化した後、(1)0.4μm cell culture insertを介して活性化血小板とCD40陽性ESCC細胞とをco-cultureする、あるいは(2)活性化血小板の培養上清をCD40陽性ESCC細胞の培養系に直接添加する。それらの刺激によりESCC細胞が転写するMMP-9 mRNAの増加をTaqMan Gene Expression Assayにて定量する。さらにESCC細胞の浸潤能の強化をinvasion assayにて定量する。このinvasion assayに先だった、ESCC細胞にGFPないしはLuciferase遺伝子を導入したクローンを作製する。これまで浸潤能の評価方法として細胞外基質としてMatrigel coating膜を使用し、浸潤してきた細胞を染色し計測していた。しかし、より客観的に、より高感度に検出可能なassay系を立ち上げることにより、活性化血小板のがん細胞に対する悪性化増強作用の評価を可能とする。さらに、(B)食道がん患者血清を用いて、血中sCD154濃度およびMMP-9濃度を求め、予後と液性因子sCD154およびMMP-9との関係を明らかにする予定である。2年間の研究結果と合わせることで、本研究の目的である、CD40陽性ESCC細胞と血小板との間を液性因子、sCD154とMMP-9が介在するmutual paracrine effectによる癌悪性化のスパイラル・モデルの証明を完結することができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
ESCC細胞表面に発現しているCD40タンパク質(受容体)のリガンドとして、Novus社ブランドのMEGACD40Lを購入・使用してきたが、コロナ禍の影響により当該製品の製造休止(欠品)状態が続いている。そこで、代替品としてR&S社ブランドのhuman recombinant CD40 ligandを購入することとした。この製品は、MEGACD40Lの購入予定額に比べ、実質納入価格が低かったため次年度への繰越金が生じた。この繰越金は、当初の予定には無かった上記「8.今後の研究の推進方策」で掲げた(B)食道がん患者血中sCD154濃度およびMMP-9濃度測定のためのELIZAキット購入費用の一部に充てることとする。
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