研究課題
胃癌患者や対照者から血小板を精製し、胃癌細胞株への添加後に電子顕微鏡による観察を行ったところ、癌細胞表面全体にわたる血小板の接着が確認された。次に、NUGC-3ならびにMKN74胃癌細胞株を用いて、胃癌患者由来血小板の培養液中への添加を行い、添加前後の細胞機能についての解析を行った。細胞増殖能の解析では、胃癌細胞株培養液中への添加によって、経時的な増殖能の有意な上昇を認めた。Boyden chamber assayを用いた遊走能解析でも、培養液中への血小板の添加によって遊走能の亢進を認め、Matrigelを用いた浸潤能解析でも、血小板の添加によって浸潤能の有意な亢進を認めた。また、中皮細胞を予め接着させたプレートを用いた接着能解析も行ったが、血小板の添加によって癌細胞の中皮細胞への接着の亢進を認めた。癌細胞の悪性度の増強について、血小板から分泌される様々な液性分子による間接的な影響と、血小板の接着による直接的な影響が考えられるため、血小板不透過膜を介した条件下に前述の機能解析を行ったところ、癌細胞への血小板の接着による直接作用によって各悪性度の増強が顕著に亢進されることが確認された。これら悪性度増強に関する機序の解明を目指して胃癌細胞株のみの培養と血小板との共培養を行い、各々の細胞株から抽出したmRNAを用いてmicroarray解析を行ったところ、血小板との共培養によって617個の分子において有意な発現増強を認め、一方で734個の分子について有意な発現低下を認めた。GO解析では、増殖、細胞接着ならびに細胞遊走関連遺伝子群に有意な差を認め、EMT関連分子であるMMP9やIntegrinα5の発現増強ならびにClaudin1やCadherin1の発現低下も確認された。
2: おおむね順調に進展している
血小板の精製について、非活性型状態での抽出技術の確立に時間を要した。機能解析については、これまで他の遺伝子導入による解析を行った経験を有していたため、予定通りに解析が進展した。また、microarray解析でも仮設通りに多数の遺伝子発現に変化を認めていたため予定通り解析を進めることができた。
今後は、癌細胞と血小板との接着によっておこる悪性度の増強について、更に詳細な機序の解明を目指す予定である。具体的には、癌細胞と血小板との接着に関連する分子の検索や、同接着によって誘導される癌細胞内ならびに血小板内のシグナル伝達経路についても検討し、血小板による胃癌細胞における悪性度増強の機序の解明ならびに治療標的分子についても検索する予定である。
少額の残余であり、次年度の交付金額と併せて使用する予定である。
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British Journal of Cancer
巻: 124 ページ: 570-573
10.1038/s41416-020-01134-7.