研究実績の概要 |
免疫チェックポイント阻害剤は臨床応用が進み、大腸癌を含めた多数の悪性腫瘍の治療ラインで成果を挙げている。一方で、抗PD-1抗体薬が適応となる転移性大腸癌は全体の約4%であるMSI-Highのサブタイプに限られるなど、未だ抗PD-1抗体による治療効果は広くは期待できないのが現状である。そのため、適応拡大に向けた研究が必要である。我々はこれまでに乳癌や肺癌で高発現するMUC1を標的とすることにより、腫瘍内のPD-L1発現を抑制し、マウスの皮下腫瘍に細胞死を誘導することを報告した。そこで本研究は大腸癌においても過剰発現するMUC1を標的として、抗PD-L1抗体による治療効果を改善させることができるかどうかとそのメカニズムの解明を目的とした。前年度までの研究の結果、我々は大腸癌細胞株においても乳癌細胞株同様にMUC1ノックダウンによってPD-L1発現が低下することを明らかにした。2022年度はPD-L1発現を亢進させることが知られているIFNγ/STAT1/IRF1経路とMUC1タンパク発現との関連についても種々の条件検討を行った上で分析を進めた。IFNγ刺激は大腸癌細胞株SK-CO-1においてもSTAT1, IRF1, PD-L1の発現を誘導した。この系とMUC1を起点とするPD-L1発現制御との関連を調べるために MUC1 siRNAによるノックダウンによってIFNγ刺激によるSTAT1, IRF1, PD-L1の発現誘導がどのように影響を受けるのかについて検討した。また、この検討と並行して、MUC1 siRNA投与後の遺伝子発現の変化についてもRNA-sequencingによって分析し、PD-L1抑制のメカニズムをbioinformaticsの手法からも明らかにしようとした。
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