本研究では、3年の研究期間内に、循環血液中の腫瘍由来DNA(circulating tumor DNA; ctDNA)を用いた膵癌の複合バイオマーカーパネルを作成することを目的としている。外科的切除を行った膵癌患者において術前・術後の循環血液中のctDNA内KRAS遺伝子のmutation (mutKRAS-ctDNA)解析を行い、mutKRAS-ctDNAが術前もしくは術後に検出された患者群では有意に予後不良であることが確認された。また画像診断における切除可能性分類や膵癌における唯一の生物学的指標であるCA19-9値とは独立した予後不良因子となり得ることが示唆された。さらには術前後mutKRAS-ctDNA検出状況を組み合わせて解析することで、膵癌の治療成績に寄与する肝再発症例の選別が可能になる可能性が見出された。 複合バイオマーカーパネルを作成を目指し、ctDNAとは異なる側面から膵癌におけるRNA解析として、膵癌の分子サブタイプを分ける指標の一つである原発巣のGATA6(GATA binding protein 6)発現に着目し解析を進めた。外科切除を受けた膵癌原発巣でのGATA6低発現患者群では有意に予後不良であることが確認された。
これらの結果を併せて、真の切除適応や最適な切除時期の決定が可能となる「複合バイオマーカーを用いた新たな膵癌治療戦略」を考案することが可能であった。以上の結果は単一施設のコホートを対象とした後ろ向き研究であるため、今後の課題としては前向き多施設コホートでの検証が必須であるが本研究では実施・確認することはできなかった。
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