研究課題/領域番号 |
20K09034
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
並川 努 高知大学, 教育研究部医療学系臨床医学部門, 講師 (50363289)
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研究分担者 |
北川 博之 高知大学, 教育研究部医療学系臨床医学部門, 講師 (10403883)
小林 道也 高知大学, 教育研究部医療学系臨床医学部門, 教授 (30205489)
花崎 和弘 高知大学, 教育研究部医療学系臨床医学部門, 教授 (30240790)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 腸音モニタリング / 腸蠕動 / 周術期 / 手術侵襲 / 音響センサー / リアルタイムモニター |
研究実績の概要 |
【目的】これまでの腸蠕動運動モニタリングは主に人間の耳で聴診器を用いて行われてきたが、腸蠕動運動が低下している全身麻酔下手術後の患者においては短時間の腸音聴取では、腸蠕動運動の正確な評価が困難である。長時間連続腸音計測解析による腸蠕動運動モニタリングを用いて手術中における腸蠕動運動をモニタリングし、手術侵襲との関連について検討した。【対象と方法】腸音モニタリングシステムを用いた手術 34 症例について腸蠕動音数の解析をした。腸蠕動音モニタリングシステムは記録装置と音響センサーで構成されており、記録装置は 4 つのセンサーとマルチチャンネルデータロガーとパーソナルコンピューターから成る。音響センサーは、シリコンで覆われた長方形のアンプ内蔵型マイクロフォンで、2 つの音響センサーを腹部に貼付し、2 つは環境音を測定するために使用して腸音を計測することで 1 分間毎の腸音数をリアルタイムで表示することが可能である。【結果】乳癌手術 28 例、甲状腺腫瘍手術 3例、副甲状腺腫瘍手術 3 例で、年齢中央値は 57 歳(25-80 歳)であった。手術室入室時から麻酔開始まで、麻酔開始から手術開始まで、手術中、手術後における腸蠕動音数はそれぞれ 1.0/分、0.9/分、0.05/分、0.1/分であり、麻酔中および手術中の腸音数は麻酔前に比して徐々に低下していき、術後回復していく傾向を認めた。手術時間と術中腸音数、手術時間と術後腸音数、麻酔時間と術後腸音数は弱いが負の相関を認めた(r = -0.065, r = -0.137, r = -0.128)。本システム施行に伴う有害事象は特に認めなかった。【結語】腸音モニタリングシステムを用いることで手術侵襲に伴い腸蠕動運動が低下していく量的変化を観察できた。本システムは、リアルタイムに腸蠕動運動を可視化・定量化することができる非侵襲的なモニターであり、手術中の管理において安全に導入可能であると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、全身麻酔下手術を受ける患者の周術期における侵襲と腸蠕動運動との関係を解明することを目指したものであり、新規の腸蠕動運動モニタリング装置を用いて周術期の腸蠕動運動を腸音数で数値化し、侵襲がもたらす腸蠕動の変化を示された。具体的には、全身麻酔から手術へと連続する侵襲ストレスが生体に加わることにより、腸音数は徐々に低下し、術後に漸増して、さらに手術時間の長さが腸音数の回復程度に関わっていることが定量的に解明された。 本年度の研究結果を基に、本システムを用いた術後の経口摂取再開時期や経腸栄養開始時期の評価法を確立することで、術後早期回復、術後合併症の軽減、さらに入院期間の短縮およびコスト削減等の効果が得られ、術後成績の向上に貢献することが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の評価検討により、麻酔中および手術中の腸音数は麻酔前に比べて低下し術後回復を認めた。また手術時間と回復室での術後腸音数は負の相関を認める傾向にあったと言える。ERASの概念では早期経口摂取の再開、腸管蠕動運動促進薬投与が勧められており、外科的侵襲による腸蠕動の変化を腸音数で数値化し、早期栄養再開のタイミングを決定できれば、術後早期回復、術後合併症の軽減、入院期間の短縮およびコスト削減にも貢献できるものと思われる。また今回本システム運用に伴う有害事象は特に認められず非侵襲的な安全なモニタリングシステムであると言える。 今後、本システムの研究を発展させ、病態変化や手術合併症の発生予兆の検出技術を確立して緻密な周術期管理による侵襲からの早期回復、術後成績の向上を目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の中、当初計画予定の出張等が中止となり、使用予定としていた予算に余剰が発生したため。
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