研究課題
固形癌のリンパ節転移を支配する決定的な遺伝子、特にエピトランスクリプトームの関与を解明することを目的とした。そして本知見を用いたリンパ節転移治療に関する基礎的な知見を得ることも合わせて目的とした。2020年度はin vivo passage法によるリンパ節転移マウスモデル、つまり最終的にほぼ100%リンパ節転移を引き起こす「高頻度リンパ節転移がん細胞(高転移細胞)」と、起源は同じながらin vitro 継代で転移能を消失させた「低頻度リンパ節転移細胞(低転移細胞)」を用いて各種遺伝子解析実験を行った。①高転移細胞および低転移細胞で発現するRNAの発現差を、マイクロアレイを用いて網羅的に解析し、リンパ節転移促進遺伝子候補、リンパ節転移抑制遺伝子候補を見つけ出した。その結果、p21(CDKN1A) 、p27(CDKN1B)、cyclin Eについて、食道癌切除標本を用いた臨床病理学的研究を行い、本事象を臨床的にも実証できるかを検討した。②高転移細胞および低転移細胞で発現するmicroRNAの発現差を、マイクロアレイを用いて網羅的に解析し、リンパ節転移に関与するmicroRNA であるmir XXを同定した。食道癌切除標本を用いた臨床病理学的研究を行い、本事象を臨床的にも実証できるかを検討した。③術前治療なしで食道切除術を行った過去の手術症例約100例を対象に、リンパ節転移と相関する腫瘍間質の炎症所見の有無について臨床病理学的研究を行った。その結果、食道癌リンパ節転移と腫瘍間質の炎症に強い相関があることが判明した。これより、今後、本事象について、さらに深く研究を進めることとした。
2: おおむね順調に進展している
樹立した高頻度リンパ節転移モデルをもとに、高転移細胞および低転移細胞で発現するRNAおよびmicorRNAの発現差を、マイクロアレイを用いて網羅的に解析し、リンパ節転移促進遺伝子候補、リンパ節転移抑制遺伝子候補をそれぞれ見つけ出した。さらにこれをもとに食道癌切除標本を用いた臨床病理学的研究を行った。これらの研究進捗については当初の予定より進んでいると判断した。高転移細胞および低転移細胞で発現するmRNA、lncRNA、circRNA、pre-miRNA、pri-miRNA、snoRNA、snRNAの各クラスのエピトランスクリプトーム解析、つまりRNAのm6A脱メチル化に関するm6AシークエンスをはじめとするRNAシークエンスについては未だ実験を開始していない。これらの研究進捗については計画よりやや遅れていると判断した。リンパ節転移と相関する腫瘍間質の炎症所見の有無について臨床病理学的研究を本研究からの派生的に生じた知見をもとに実施した。これらの研究進捗については当初の予定より進んでいると判断した。
高転移細胞および低転移細胞のmRNA、lncRNA、circRNA、pre-miRNA、pri-miRNA、snoRNA、snRNAの各クラスのエピトランスクリプトーム解析、つまりRNAのm6A脱メチル化に関するm6AシークエンスをはじめとするRNAシークエンスを行う。(2021-2022年度)CRISPR-Cas9による遺伝子編集により、同定したRNAをノックダウンさせることによりマウスモデルのリンパ節転移状況に大きな変化が現れるかを検証する。(2022年度)リンパ節転移と相関する腫瘍間質の炎症所見の有無について臨床病理学的研究をさらに深く進め、リンパ節転移支配因子を突き止める。(2021-2022年度)術前治療なしで食道切除術を行った過去の手術症例を対象に、主病巣におけるRNA修飾とリンパ節転移の相関を検証する。(2021-2022年度)
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