研究課題
リンパ節転移は食道扁平上皮癌の患者予後を規定する重要な因子であるが、未だその分子機序は不明である。本研究は、マウス扁平上皮癌由来のNR-S1M細胞を用い、癌のリンパ節転移に関わる重要な遺伝子を同定することを目的とした。NR-S1M皮下腫瘍をin vivoで継代することにより、悪性度の高いNR-S1M転移細胞株を単離した。RNA-seq解析でNR-S1M転移株ではサイトカインネットワークが大きく変動し、形成した腫瘍の一部の領域では抗腫瘍免疫細胞の割合が顕著に低下していることが判明した。そこでVisium空間的トランスクリプトーム解析を行うことにより、50μmの解像度で位置情報を反映した約5,000スポットの遺伝子発現プロファイルを取得しクラスタリング解析を行った。その結果、抗原提示やインターフェロン応答及び炎症応答が低下している免疫抑制区域の同定に成功した。当領域では低酸素応答、アポトーシス及び血管新生に関わる遺伝子群の発現が有意に上昇しており、当遺伝子群の中から多くの転移促進因子が確認された。次にNR-S1M腫瘍巣の免疫抑制区域及びNR-S1M転移株に共通して発現が上昇した遺伝子リストからGalectin分子を抽出した。CRISPR-Cas9を用いてGalectin分子欠損株を作成した。これをマウスに移植した結果、原発腫瘍の進行には差異が見られなかったにもかかわらず、リンパ節転移が顕著に抑えられることを発見した。これより、Galectin分子は癌リンパ節転移における重要な因子であることが示唆された。近年、癌治療において腫瘍免疫が期待されている。Galectin分子は抗腫瘍免疫細胞のアポトーシスを誘導することが報告されており、本Galectin分子の免疫抑制分子機序の解明は、腫瘍免疫学からの新たな治療法の開発を生み出す有用な基礎研究になった。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Oncogene
巻: 41 ページ: 5319-5330
10.1038/s41388-022-02525-1