研究課題
大腸癌・胃癌に対する、低分子化合物を用いた代謝阻害治療法の確立を目指して、今年度は以下の研究内容を実施した。細胞外フラックスアナライザーを用いて、大腸がん細胞株6種類、胃がん細胞株6種類についてそれぞれがもつsteady stateでの細胞内代謝の特徴を調べた。具体的には解糖系とミトコンドリア呼吸に分けてそれぞれの代謝状態を調べ、各細胞株の代謝プロフィリングを行なった。これらの結果、各癌細胞株ごとに解糖系代謝・ミトコンドリア呼吸に相違があり、代謝の状態(依存度)は大きく3つのパターンに分類できることを明らかにした。さらに、解糖系を選択的に阻害する低分子化合物(LDH阻害剤)をこれらの細胞に投与して癌細胞に解糖系代謝阻害ストレスを与えたのち、これらの細胞株の代謝変容と細胞増殖抑制について調べた。その結果、低分子化合物による大腸癌・胃癌細胞内の解糖系代謝の阻害・抑制が可能であること、そしてそのon-target効果はいくつかの細胞株に対して細胞増殖抑制効果をもたらした。さらに、解糖系代謝が亢進している細胞株であるにもかかわらず解糖系阻害で細胞増殖抑制効果が得られない細胞株が存在することを明らかにした。これらの細胞株においては代償性にミトコンドリア呼吸が増大していることを見出した。LDH阻害剤による解糖系代謝の強制的かつ急速な阻害により癌細胞内で乳酸産生が抑制されてエネルギー産生低下が引き起こされることを回避するために、これらの癌細胞において酸素状態に関わらず”metabolic switch”が惹起されている可能性があることが示唆された。
3: やや遅れている
本年度は、COVID-19による研究活動制限と移動制限があったため、研究の遂行に遅延が生じた。本研究が他大学との共同実験を含む性質上、上記制限によって特にin vivo実験に遅れた生じた。その一方で、胃癌細胞株を用いた実験を追加したことで、胃癌に対する代謝阻害治療の開発研究の可能性を新たに見出すことができた。また、細胞内エネルギー産生の急速な低下を回避する、癌細胞内での”酸素状態によらないエネルギー代謝の可塑性”という新たな知見を得ることができた。
低分子化合物による、大腸癌・胃癌に対する代謝阻害治療法の臨床応用を目指して、来年度は以下の研究を予定している。当院において樹立されたヒト検体由来の大腸癌・胃癌細胞株を用いて個々の検体の代謝プロファイリングを行い、LDH阻害剤による代謝変容と細胞増殖抑制効果について検討する。同時に、癌細胞が持つ”酸素状態によらないエネルギー代謝の可塑性”について調べる目的としてもう一つの低分子化合物であるミトコンドリア呼吸阻害剤の投与を追加することで、薬剤による細胞内エネルギー産生の強制かつ急速な低下を回避する細胞内代謝変容についての解析を行う予定である。さらに、これらの腫瘍のマウスモデルを用いて、超偏極13C-MRIを撮像しながらin vivoで代謝モニタリングを行い、これらの代謝阻害剤の薬剤効果についても解析を行なっていく予定である。
本年度はCOVID19による研究活動制限・移動制限のため、当初予定していた研究の中に縮小や中断をせざるえない研究内容があったため。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
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