Circulating tumor DNA (ctDNA)は癌患者の血液中に微量に存在する腫瘍由来のDNAであり、体内腫瘍量のモニタリング法として臨床応用されつつある。本研究では、分子バーコードを用いた次世代シーケンサー(NGS)を利用することでctDNAの検出感度を向上させ、胃癌に対する化学療法や免疫療法の効果判定に有用となり得るかどうかを検討することを目的とした。 まず、切除標本においてTP53遺伝子変異の確認されている食道癌患者の血漿を用いて、分子バーコードを用いたNGS解析によってctDNAを検出可能であることを確認後、胃癌患者15例のFFPEおよび血漿検体よりDNA抽出を行い、分子バーコードNGS解析を行ったところ、同一症例におけるFFPEと血漿由来のDNAの間に共通で認めた遺伝子変異は、ARID1AとTP53の変異をそれぞれ別の1例に認めたのみであり、想定より少なかった。胃癌のように特定の遺伝子変異頻度が低い癌腫に対して臨床応用を考える上では、分子バーコードNGSを用いてもctDNAの検出感度の向上はあまり期待できないと考えられた。 そこで今年度は、epigeneticな遺伝子発現調節機構であるDNAメチル化に着目することにし、胃癌に対して化学療法を施行した8例の患者の血漿検体からDNAを抽出して、癌関連63遺伝子のメチル化情報をNGSで解析した。メチル化率の高かった遺伝子については、同一症例の胃癌切除標本の癌部と非癌部からそれぞれDNAを抽出し、CpG領域の転写開始部位からの距離別にメチル化率を調べたところ、CpG領域の多くの部位において非癌部に比べて癌部でメチル化が亢進していることを確認できた。今後は症例数を増やし、血中メチル化ctDNAを検出することで胃癌の病勢や治療効果を高感度に判定できるかどうかを検討予定である(基盤研究C 23K08169へ引き継ぎ)。
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