研究課題/領域番号 |
20K09068
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研究機関 | 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所) |
研究代表者 |
笠島 理加 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所), 臨床研究所, 副技幹・主任研究員 (20630875)
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研究分担者 |
井元 清哉 東京大学, 医科学研究所, 教授 (10345027)
廣島 幸彦 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所), 臨床研究所, 医長 (60718021)
山口 類 愛知県がんセンター(研究所), システム解析学分野, 分野長 (90380675)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Virtual dissectionモデル / がん微小環境 / 膵癌 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、がん細胞のゲノム情報とがん細胞を取り巻く微小環境のゲノム情報を合わせることでがんゲノム医療の精度を大きく向上させることである。具体的には、臨床で使用可能なbulk のがん組織を用いたRNA sequencing (RNA-seq) データを数理的に各細胞グループに分離、分析する新規Virtual dissection モデルを構築し、臨床での実装化を目指す。自施設の膵癌切除検体を用いたbulk RNA-seq、Single cell RNA-seq (scRNA-seq)の各データと膵癌PDX モデルを用いたインタラクトーム解析の結果を統合し、NMF 法、Deconvolustion 解析、CIBERSORT など様々な数理モデルを用いて、新規Virtual dissection モデルの構築を行う。さらに、TCNG(The Cancer Network Galaxy(ベイジアンネットワークによるがん統合分子ネットワークデータベース))を合わせることで、on-tumor でpathogenic に働いているがん-間質相互作用を同定することが可能となり、がん細胞と微小環境の両方を対象にした次世代がんゲノム医療の実現を目指す。初年度は、主として本解析に必要なデータセットの取得を行った。また、165症例のTCGAデータベースの膵癌を用いて癌と間質の相互作用の関係を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、解析に必要なデータセットの取得を主に行なった。取得できたデータは以下の通りである。膵癌関連発現データ:Microarray data (GEO, GSE71729)、scRNA-seq data (CRA001160)をデータベースよりダウンロードした。膵癌PDX:bulk RNA-seq 11例、膵癌切除組織:bulk RNA-seq 16例のfastqファイルを取得した。膵癌の発現データの取得は概ね予定通り取得できた。しかし、当初、シングルセルRNAseqのデータの取得も行う予定でいたができなかった。その理由として、シングルセル解析で良いデータを取得するには細胞の生存率が高いことが最も要求されるためである。また、膵臓組織は酵素を多く分泌する組織であり、作業工程中に細胞が死んでしまいやすいためである。さらに、がん細胞や正常の膵臓細胞や間質細胞を一つ一つにバラバラにするのが大変難しい組織の一つであるためであり、以上の3つの理由を踏まえて、十分な条件検討が必要だと考えた。その為、テクニカルの面で検討を行った。また、その代替手段の検討も行った。 165症例のTCGA膵癌データの解析からも、これまでの報告にもあるように癌の微小環境の増生が顕著で、その構造はがん細胞によって積極的に構築され、さまざまな側面からがんの進展を促進させていることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
(1)前年度に引き続き、未取得のデータの取得を行う。 (2) Virtual dissection モデルの構築とDiver interaction の同定:Public data や膵癌PDX、手術検体から得られたデータをNMF 法、Deconvolution 解析、CIBERSORT などの数理モデルを用いて、発現量の分解を行い、モデルを構築する。本モデルによる解析結果とTCNG を統合し、治療標的候補となるがん-間質相互作用を同定する。また、膵癌PDX の症例については、インタラクトーム解析も平行して行い、TCNG の結果と比較検討する。尚、膵癌PDX では免疫不全マウス(NSG マウス)を使用しているため、免疫細胞に関する情報がなく、正常細胞についてもマウス細胞であるため、移植源組織のデータを用いて補正を行う。 (3) Virtual dissection モデルの検証:(2)で同定したDiver interaction に関する候補分子群について、同一検体の免疫組織化学を用いて、発現量と発現細胞について検証する。検証された分子については、膵癌200 症例のTissue microarray (TMA)を用いて臨床病理学的因子との関連を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
scRNA-seqのデータの取得を行うために予算を充てていたが、それができなかったため、次年度に実験を行えるように計画を変更した。元々、scRNA-seqは生存率が高い活きの良い細胞を使用することが不可欠である。次年度使用が生じた理由として、膵臓組織は酵素を多く分泌する組織であり、作業工程中に細胞が死んでしまいやすいためである。さらに、がん細胞や正常の膵臓細胞や間質細胞を一つ一つにバラバラにするのが大変難しい組織の一つであるため、十分な条件検討が必要だと考えた。その為、テクニカルの面で検討を行い、その代替手段の検討も行った。今後の使用計画として、がん組織のscRNA-seqの代替えの検討として膵癌組織からオルガノイドを作成しており、それに対してscRNA-seqを行うことを予定としている。scRNA-seqを行うために癌組織を模倣するオルガノイドモデルを利用することで、より生存率の高い細胞を十分に得られることが期待されるからである。
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