研究課題/領域番号 |
20K09075
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
加藤 真良 信州大学, 学術研究院医学系, 助教 (70402104)
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研究分担者 |
中山 淳 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (10221459)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 胃癌 / 胃型腺癌 / α4GnT / 遺伝子発現機構 |
研究実績の概要 |
α1,4-N-アセチルグルコサミン(αGlcNAc)は胃腺粘液に含まれる特殊な糖鎖構造であり、糖転移酵素α4GnTによってのみ合成される。α4GnT欠損マウスでは胃分化型癌が自然発症する。加えてヒト胃分化型癌ではαGlcNAcの発現が抑えられること、膵臓などの胃型腺癌で異所的に発現したαGlcNAcが、悪性度の進行に伴いその発現が抑えられることが分かってきている。本研究は、未だ不明であるα4GnTの発現機構に着目し、その遺伝子プロモーターや活性化因子、シグナル経路を調べることで、発癌機構の一端を明らかにすることを目的として行っている。既に見出したA4GNT遺伝子プロモーターに存在するエンハンサーとして知られるCAAT boxに結合する転写因子の一つについて解析を進めたところ、A4GNT遺伝子が発現するNUGC4細胞を使ったルシフェラーゼ遺伝子レポーターアッセイによりCAAT boxの場所、その向きが遺伝子発現に必須であることが分かった。しかしながら、その結合転写因子の過剰発現はA4GNT遺伝子発現に何の効果もなく、またRNA干渉法によるその結合転写因子発現抑制によりむしろA4GNT遺伝子発現が促進されることが分かった。このことにより、既に見出したA4GNT遺伝子プロモーター結合転写因子は抑制的に作用することが示唆され、遺伝子発現誘導に寄与する因子ではない可能性が強まった。この転写因子はホモダイマーやファミリータンパク質とのヘテロダイマーを形成して機能することが報告されており、現在そのファミリータンパク質の方にも着目して解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ゲルシフトアッセイの結果、A4GNT遺伝子プロモーター領域に転写因子が有意に結合する場所は2か所であり、それぞれ転写因子であるHNF1タンパク質とEtsタンパク質が結合すると想定された。HNF1タンパク質はαとβのみであり、このうち結合が確認されたHNF1αは、解析を進めた結果、A4GNT遺伝子発現誘導に寄与しないことが示唆されたため、改めてHNF1βについて解析する必要性が急浮上した。 転写因子結合部位のDNA塩基配列を使ったプルダウンアッセイ法では、非特異的な結合物の排除が困難であり、特異的結合物が未だ見いだせていない。加えてEtsタンパク質はファミリータンパク質が多く、候補が絞りきれず、特異的抗体を使ってのA4GNTプロモーター領域に結合するEtsタンパク質の同定に未だ至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
①先ずはHNF1βがA4GNTプロモーター内のCAAT boxに結合し、遺伝子発現に寄与するか、ゲルシフトアッセイ、ルシフェラーゼ遺伝子レポーターアッセイやクロマチン免疫沈降法で確認する。Etsタンパク質結合部位についても並行して結合タンパク質同定を試みるが、CAAT boxを欠損させるとA4GNT遺伝子発現が著しく抑制されることを見出しており、まずはここの制御機構を重点的に解析する。 ②HNF1βの活性化機序を、A4GNT遺伝子発現が認められるヒト胃未分化型癌由来細胞株NUGC4細胞を使って検討する。阻害剤などの化学処理、活性化型変異体の強制発現やRNAi法などを用い、ルシフェラーゼ遺伝子レポーターアッセイで確認する。HNF1αとの関係についても検討する。 ③HNF1βの上流のシグナルについて、NUGC4細胞を使って検討する。結合タンパク質を免疫沈降法やプルダウンアッセイ法で見出し、質量分析法で同定する。 ④胃分化型癌においてα4GnTの発現が抑制される機構の解析を、A4GNT遺伝子発現が抑制されているヒト胃分化型癌由来細胞株AGSなども使って検討する。③までの解析で明らかになった機構が、AGS細胞ではどのようになっているかを比較検討し、胃分化型癌でA4GNT発現が抑えられる仕組みを見出す。癌組織におけるその発現を誘導するシグナルの解析も、ヒト癌組織検体を使った免疫組織化学的手法を用いて行う。これらによりA4GNT発現に着目した胃分化型癌や胃型腺癌発症の仕組みを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究進捗が遅めということと、予定していた超音波破砕機の購入を行っていないために2020年度の使用予定額を下回った。現在超音波破砕機は借用可能であり、次年度も購入を見送る可能性がある。その分さらに最終年度に持ち越される可能性もあるが、試薬や抗体といった消耗品のさらなる購入も想定されることから、それに使用用途が変わる可能性もある。
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