本研究は、未だ不明である胃がんに抑制的に働くα4GnTの発現機構に着目し、その遺伝子プロモーターや活性化因子、シグナル経路を調べることで、発癌機構の一端を明らかにすることを目的として行った。A4GNT遺伝子プロモーターに存在するエンハンサーとして知られるCAAT boxや転写因子Etsファミリー蛋白質結合配列に結合する転写因子について解析を進めたところ、A4GNT遺伝子が発現するNUGC4細胞を使ったルシフェラーゼ遺伝子レポーターアッセイによりCAAT boxの場所、その向きが遺伝子発現に必須であることが分かった。しかしながら、すでに同定しているその結合転写因子(未公表)の過剰発現はA4GNT発現に何の効果もなく、またRNA干渉法による発現抑制によりむしろA4GNT発現が促進された。実際にヒト胃型腺癌において、A4GNT発現が認められる部位ではその結合転写因子発現が抑えられ、A4GNT発現が消失した部位でその発現が認められた。これらのことにより、A4GNTプロモーターのCAAT box結合転写因子は抑制的に作用することが示唆された。この転写因子はホモダイマーやファミリー蛋白質とのヘテロダイマーを形成して機能することが報告されている。NUGC4細胞では、そのファミリー蛋白質やA4GNTプロモーターに結合しうるいくつかのEtsファミリー蛋白質の発現が確認できたので、それらのヒト胃型腺癌における発現状況も検討した。その結果、これらの蛋白質の発現とA4GNT発現の相関は認められなかった。現時点でA4GNT発現を制御しうる因子としては負の制御に関わるもの1つのみが確認できた。今後はA4GNT発現を正に制御する因子のさらなる検討と、本研究で見出した負に制御する因子の上流のシグナルの解析が展開される。
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