研究課題/領域番号 |
20K09078
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
浜井 洋一 広島大学, 病院(医), 講師 (90423384)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 食道癌 / Small RNA / Transfer RNA / 化学療法 / 放射線治療 / 手術 / 核酸医薬 |
研究実績の概要 |
我々は食道癌患者の癌組織と血中エクソソーム内のsmall RNA解析を行い、その中に多くの transfer RNA断片 (tRNA fragment:tRF) を確認してきた。また食道癌患者と健常者血清中のmicro RNAの発現を比較し、食道癌早期診断のための診断パネルを作成し報告した。(Ibuki Y, Hamai Y, et al. Circulating microRNA/isomiRs as novel biomarkers of esophageal squamous cell carcinoma. PLoS One. 2020;15:e0231116) 本研究は、低酸素環境で培養した食道癌細胞株と食道癌患者の血清を用いてエクソソーム内の small RNA を網羅的に解析し、癌患者で特異的に発現し悪性度や治療効果、予後と相関するtRFを同定し、その機能解析を行うことを目的としている。 現在までに、食道扁平上皮癌細胞株を低酸素ワークステーションにおいて培養し、培養上清のエクソソームから内包RNAを抽出し、次世代シークエンサーを用いてsmall RNAの網羅的解析を行った。低酸素環境ストレス下において有意に発現が変化するmiRNAおよびtRFを抽出し、これまで解析してきた食道癌患者の血清で同定されたtRFと食道癌切除組織から抽出したRNAのtRF発現を比較した。これにより食道癌の臨床病理学的因子や化学・放射線療法の治療効果と相関する候補tRFを選定した。このtRFを細胞株に導入し発現上昇株を作製。またRNAインヒビターにより発現抑制細胞株も作製した。現在これらの食道癌細胞株を用いて、細胞浸潤・遊走能および種々の抗がん剤感受性について解析を行っている。今後、上記tRFに相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドによる細胞機能の変化も解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
食道扁平上皮癌細胞株TE-1、TE-11、TE-14を低酸素ワークステーションにおいて培養し、細胞増殖およびHIF-1発現の測定を行い低酸素環境への適応を評価。これらの細胞株の浸潤・遊走能、種々の抗癌剤感受性の変化を確認した。この培養上清に放出されたエクソソームと通常酸素環境下での培養上清のエクソソームを回収し内包RNAを抽出。次世代シークエンサーを用いてsmall RNAの網羅的解析を行い、低酸素環境ストレス下において有意に発現が変化するmiRNAおよびtRFを抽出した。この結果と、これまで解析してきた食道癌患者の血清エクソソームで同定されたtRFと食道癌切除組織から抽出したRNAでのtRF発現とを比較することで、癌組織に発現し進行度や予後、化学・放射線療法の治療効果に関わり、治療過程で発現が変化する候補tRFを選定している。 当初の計画では、食道癌患者血清を用いて、上記の候補tRFを定量的RT-PCRにて再評価し、臨床病理学的因子や化学・放射線療法の治療効果、予後との相関を確認・検証し、その機能解析を行う予定であった。現在は機能解析を行っているが、細胞浸潤・遊走能についての検討までしか研究を進められておらず、計画よりやや遅れていると判断した。現在は薬剤感受性について検討を行っており、今後はアンチセンスオリゴヌクレオチドによる細胞機能の変化も解析する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
特定された癌特異的tRFをプラスミドにより細胞株に導入しtRFの発現を上昇させる。またRNAインヒビターにより発現抑制細胞株も作製し使用する。これらの食道癌細胞株を用いて、以下の通り新規癌関連tRFの機能解析を行う。 1.Cell invasion assay, Cell migration assayにて細胞浸潤・遊走能について比較検討する。 2.種々の抗癌剤の感受性についてMTT assay にて比較検討し、薬剤感受性については、複数の薬剤に対する耐性細胞株も作製し、tRF 発現の変化を解析する。 3.tRFのターゲット分子を予測し、ターゲット分子の上・下流の遺伝子と蛋白質発現の変化を解析する。 4.tRFに相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドによる細胞機能(浸潤・遊走能、薬剤感受性とともにアポトーシス)の変化を解析する。 以上より、tRFが癌の悪性化と治療耐性にいかに関わっているか、新たな分子機構を解明し、分子マーカーとしての有用性と核酸医薬の治療標的としての可能性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、食道癌患者血清を用いて候補tRFを定量的RT-PCRにて再評価し、臨床病理学的因子や化学・放射線療法の治療効果、予後との相関を確認・検証し、その機能解析を行う予定であった。現在は機能解析を行っているが、細胞浸潤・遊走能についての検討までしか研究を進められておらず、薬剤感受性試験については現在進行中である。当初の研究計画よりやや進行が遅れているため、支出額が少なくなり次年度使用額が生じた。 今後、種々の抗癌剤の感受性についてMTT assay にて比較検討し、薬剤感受性については、複数の薬剤に対する耐性細胞株も作製し、tRF発現の変化を解析する。またtRFのターゲット分子を予測し、ターゲット分子の上・下流の遺伝子と蛋白質発現の変化を解析する。さらにtRFに相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドによる細胞機能(浸潤・遊走能、薬剤感受性とともにアポトーシス)の変化を解析する。今後はこれらの研究のために支出を行う予定である。
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