研究課題
癌の浸潤・転移機構に関して、腫瘍微小環境を構成する様々な種類の細胞の相互作用が重要な役割を果たしていることが示唆されており、近年その解明の一助としてシングルセル解析という手法が発展を見せている。今回我々は、“Visium(10Xgenomics社)”という、スライドガラスにPoly-A補足オリゴがアレイ状に配置され、そこで細胞溶解後mRNAを溶出させることで位置情報を維持したままシングルセルレベルに匹敵する高い解像度での解析を用いることできる新技術に着目した。従来の病理形態学と合致させた遺伝子発現地図を作成し微小環境の解明を行うことを目的として本研究は開始された。腫瘍先進部においては、積極的な腫瘍免疫応答が起こっており、T細胞やB細胞といった免疫細胞が大量に浸潤していることが知られている。また、術前化学療法により免疫微小環境は大きく変動することも判明している。そこで、当研究室が以前から保有している食道癌サンプルから得られたシークエンスデータを用いたシングルセル解析により、化学療法の有無による免疫細胞の機能変化を評価した。化学療法を行った症例においては、細胞障害性T細胞はアポトーシスや疲弊を回避し、ヘルパーT細胞はよりメモリーへと誘導され、疲弊も回避されることがわかった。一方で、制御性T細胞は細胞傷害性や免疫抑制能力が低下しており、樹状細胞での抗原提示性は増加したことがわかった。よって、食道癌における化学療法では免疫細胞による抗腫瘍免疫を増強している可能性が示唆された。
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