研究課題/領域番号 |
20K09082
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
衛藤 剛 大分大学, 医学部, 准教授 (00404369)
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研究分担者 |
猪股 雅史 大分大学, 医学部, 教授 (60315330)
山田 健太郎 大分大学, 医学部, 准教授 (70458280)
小川 雄大 大分大学, 医学部, 病院特任助教 (40733621)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | レオウイルス / 遺伝子組換え / 抗腫瘍効果 / 光線力学療法 / 近赤外蛍光 / 蛍光ナビゲーション手術 |
研究実績の概要 |
消化器癌では根治切除が唯一完治できる治療であるが、その後の治療を困難にしている原因として腹膜転移、リンパ節転移がある。これらに対し、癌のウイルス療法や術中イメージング、光線力学療法が近年注目されている。 腫瘍溶解性レオウイルスは非病原性であるが、ras経路が活性化している癌細胞で選択的に増殖し、細胞溶解を引き起こす。80%以上の症例にK-ras遺伝子の変異が存在する膵癌に加えて、胃癌や乳癌に対してもレオウイルスが有効であることを我々は報告している。レオウイルスの遺伝子操作系については、2007年に小林ら(現・大阪大学微生物病研究所)によって開発され(Kobayashi et al, Cell Host Microbe, 2007)、外来遺伝子の挿入・発現も可能となってきたことから、癌治療用遺伝子組換えウイルスとしての展望がまさに開けたところである。 消化器癌について、腹膜転移とリンパ節転移は予後不良因子であり、膵癌と胃癌では特にその頻度が高い。予後向上を目指して抗癌剤の腹腔内投与が試みられているが効果は十分でない。特に腹膜転移は根治不能であり、強力な治療の開発は喫緊の課題である。癌の外科的切除における取り残し(微小癌遺残)が再発・転移に繋がるが、それを蛍光プローブ等により可視化して発見・除去する技術(術中蛍光イメージング)が注目を浴びている。本研究では生体イメージングに適した近赤外蛍光蛋白質や光毒性を発揮する赤色蛍光蛋白質を発現する遺伝子組換えレオウイルスは、術中微小癌診断と殺癌細胞効果を同時に行うという診断治療一体型ナビゲーション手術を可能にし、悪性度の高い消化器癌の術後生存率の向上に寄与できるのではないかと考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
組換えレオウイルスの改良として、近赤外蛍光蛋白BDFP発現組換えレオウイルスの作成を行なった。S2分節へのBDFP導入が、増殖性・殺細胞効果・蛍光発現全てにおいて以前に作成したiRFP720発現組換えレオウイルスよりも改善されていることが確認された。また、光線力学療法に資する組換えレオウイルスの開発として、 活性酸素産生赤色蛍光蛋白質(KillerRed)を発現する組換えレオウイルスの作成も行なった。これまでに590nmの光線照射によりKilleRedによる殺細胞効果は自施設において実証済みである。現在、 KillerRed組換えレオウイルスによるin vitroにおける光線力学療法による強力な殺腫瘍効果の上乗せ効果について検証している。BDFP/killerRed組換えレオウイルスは共に胃癌細胞株(NUGC4、MKN45、MKN45P)および膵癌細胞株(PK1、Panc1)、ハムスター癌細胞(HPD-1NR、HPD-2NR、HPD-3NR、HaP-T1a)への感染と蛍光発現も確認された。 続いて、当初の予定通りヌードマウスへ各種癌細胞株の皮下もしくは腹腔内移植を施行した。株ごとにばらつきを認めるものの、皮下結節または腹膜播種モデルの作成は成功している。 現在、担癌モデルへのウイルス投与を行っており、蛍光発現の程度を見ながら、適宜ウイルスの改良や濃度の調整などを行い、実験を継続している。
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今後の研究の推進方策 |
in vitroにおいて、BDFP発現組換えレオウイルスおよびKillerRed発現組換えレオウイルスの増殖性・殺細胞効果・蛍光発現は確認された。今後、癌細胞を接種したマウス(皮下および腹膜播種担癌モデル)を用いて、作成したBDFPおよびKillerRed発現組換えレオウイルスの術中蛍光イメージングによる微小播種診断の有用性をex vivoイメージング等により評価し、さらに抗腫瘍効果も明らかにする予定である。用いる細胞株としては、 in vitroで最も蛍光発現が強かった低分化型印環細胞癌(NUGC-4)により皮下結節担癌マウスモデルでの組換えレオウイルスのViabilityを検討する。そして、腹膜播種担癌マウスモデルとして高頻度胃癌腹膜播種株(MKN45P)および腺がん低分化型株(OCUM-1)での組換えレオウイルス蛍光発現、抗腫瘍効果を実証する。さらには、immunocompetent modelを用いた組換えレオウイルスの抗腫瘍効果および生体内動態についても検証を行うため、 ハムスター膵管癌細胞下部(HaP-T1a)を用いた皮下結節・腹膜播種担癌ハムスターモデルでの組換えレオウイルスのViabilityを検討する。
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