研究課題/領域番号 |
20K09092
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研究機関 | 千葉県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
中村 友紀 千葉県がんセンター(研究所), がん予防センター 腫瘍ゲノム研究室, 嘱託研究員 (50869287)
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研究分担者 |
下里 修 千葉県がんセンター(研究所), がん予防センター 腫瘍ゲノム研究室, 室長 (30344063)
石毛 文隆 千葉県がんセンター(研究所), 肝胆膵外科, 医員 (60815801)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 大腸がん / 治療耐性 / KDM2B / ヒストン脱メチル化 |
研究実績の概要 |
切除不能大腸がんの治療成績を改善するためには、その主な標準治療である化学療法に対する耐性の克服が重要課題である。申請者らの先行研究から、ヒストン脱メチル化酵素の一つであるKDM2Bが大腸がん患者の化学療法に対する抵抗性獲得にも寄与する可能性が示唆された。そこで本研究は、KDM2Bの大腸がん細胞の薬剤耐性における意義を探求し、KDM2Bを起点とするエピジェネティックな遺伝子発現の亢進および抑制の全体像を解明することを目的とする。 今年度は、野生型KDM2B(以下、WTという)、あるいは酵素失活型の変異KDM2B(以下、MTという)を発現する大腸がん細胞を新たに作製し、マイクロアレイ解析で同定したKDM2Bが制御する候補遺伝子群について、転写開始点(TS)周辺のヒストン修飾(H3K4me3など)をChIP-qPCRで解析した。その結果、WTの過剰発現は当該遺伝子のTS周辺のH3K4me3レベルを低下させたが、MTの過剰発現は影響を及ぼさなかった。さらに、WT発現細胞では当該遺伝子群の発現が抑制されていたが、この遺伝子発現の低下はKDM2Bの酵素活性に依存していた。興味深いことに、KDM2Bの発現変化はH3K4me3以外のヒストン修飾にも影響を及ぼした。現在、WTあるいはMTを発現させた大腸がん細胞におけるKDM2Bの結合領域などをChIP-seqによって網羅的解析を進めている。一方、低濃度の抗がん剤への暴露は大腸がん細胞の抗がん剤耐性を上昇させ、このとき同時にKDM2Bの発現低下とゲノムワイドなH3K4me3レベルの上昇が観察された。現在、発現低下の仕組みを解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた実験を概ね予定通りに実施し、一定の成果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
研究1)KDM2Bによるヒストン修飾制御の解析。すでに作製した野生型あるいは酵素失活型の変異KDM2Bを発現する大腸がん細胞におけるKDM2Bの結合領域およびH3K4me3などのヒストンマークの修飾レベルをChIP-seqによってゲノムワイドに解析する。 研究2)抗がん剤暴露によるKDM2B発現低下の分子機構の解明。大腸がん細胞株(上記の初代細胞株も含む)におけるKDM2B遺伝子の転写開始点付近のヒストン修飾(H3K27Acなど)の程度を低濃度の抗がん剤暴露(5-FU)の有無で比較し、当該遺伝子の発現に対する影響を検討する。 研究3)KDM2B発現を起点とする治療法開発。研究1)で作製した初代大腸がん細胞株や同所性あるいは異所性の担癌マウスを使ったin vitroおよびin vivoの解析から、上記の新規化合物が有する標的遺伝子の発現抑制効果ならびに抗がん剤感受性(5-FU、オキサリプラチンおよびイリノテカン)への影響を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染の影響で多くの学会がオンライン開催となった。研究成果を学会などで発表したが、そのための旅費として計上した予算が未執行となり、次年度使用分となった。その分は、予定していた試薬などの購入に加えて、ChIP-seqを行うための次世代シーケンス関係の試薬購入に充当し、網羅的解析を進める予定である。
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