研究課題
十二指腸空腸バイパス術(Dudenal-jejunal-bypass: DJB)は、減量・代謝改善手術の一術式であるスリーブ状胃切除術+十二指腸空腸バイパス術のうち胃の形成を付加せず、摂食制限を伴わない純粋なバイパス手術の機能をみるための実験モデルである。本研究は、独自に作成した食餌誘発性NASHモデルラットに対して、そのバイパスされる腸管を様々に調整したDJBを行い、治療効果との関係を検討することで、NASHに対する減量・代謝改善手術の代謝改善機序の解明に迫ることを目的としている。DJBでは、胃癌術後のRoux-en-Y再建の様な消化管再建術を行う。小腸は、食事のみが通過するAlimentaly limb、胆汁膵液のみが通過するBiliopancreatic limb、食事と胆汁膵液が混和し、消化・吸収の場となるCommon channelに分けられる。我々のグループでは、BPLの長さに比例して糖尿病改善効果と血中胆汁酸濃度がパラレルに変化し、BPLを切除するとその治療効果がキャンセルされること、胆汁酸がBPL内で早期に再吸収されるということ報告してきた。2021年には、当研究グループからSurgery誌に研究成果を発表することができた。食餌誘発性NASHモデルラットに対し、DJBを施行した群ではNASH改善効果を認めたが、BPLを切除した群では、バイパスの存在にもかかわらず、その治療効果がキャンセルされた。BPL切除群では、マクロファージやTリンパ球、腸管由来のリポ多糖類が増加していることから、BPLの存在により、小腸の炎症が軽減することがその機序の一端を担っている可能性を示した。現在は、胆汁酸に着目してさらに研究を進めるため、バイパス手術自体は施行するものの、BPL内に胆汁が流入しない部位で十二指腸を切離するモデルの作成に注力している。
3: やや遅れている
新型コロナウイルスの感染拡大により、通常時と同様には実験に取り組めない状況が続いている。また、今回検討を予定しているD-DJBという術式は、十二指腸をVater乳頭の遠位で切離して消化管バイパスをすることで、通常のDJBと異なり、バイパスしているにもかかわらず、BPL内には胆汁が流入しないという術式である。手術方法がこれまでよりも一段階難しく、モデルラットの安定した作成にやや難渋している。
D-DJBモデルラットの安定した作成が鍵であり、鋭意取り組んでいる。また、サンプル採取においては、これまでは対象としていなかった腸管内容に着目した検討を考えている。腸内細菌やメタボライトなど、腸管内容の術式による変化を治療効果と比較検討し、研究の幅を広げたい。
新型コロナウイルスの感染拡大のために、通常通りに実験が進んでいない。学会参加などが制限されている。新規モデルの作成に手間取り、次の実験に進めていない。次年度は、新規モデル作成が軌道に乗り、次の実験に進むことを見込んでいる。また、様子を見ながらであるが、学会での成果発表も進めていきたい。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件)
Surgery
巻: 170 ページ: 1006-1013
10.1016/j.surg.2021.07.003