本研究の目的は、大動脈石灰化がアポリポ蛋白E(ApoE)を介して肝内在性ナチュラルキラー(NK)細胞の抗腫瘍活性に与える影響を明らかにすることである。大動脈石灰化は、脂質代謝を司るApoE機能異常と関連し、心血管合併症のみならず外科手術後の合併症や癌再発に関与する。我々はこれまで、肝内在性NK細胞が強力な抗腫瘍活性を持ち、肝臓切除後や肝移植後の肝内免疫で重要な役割を果たすという知見を得た。 本研究では、大動脈石灰化マウスモデル(ApoE KO)を用いて、肝切除及び肝転移モデルにおける肝内在性NK細胞機能及び肝内因子とApoEとの関連を解析する。さらに、臨床サンプルを用いてApoEと肝内免疫、予後との関連を解析する。前年度までに肝臓移植ドナーの大動脈石灰化群では、刺激培養後に肝内在性NK細胞の抗腫瘍分子TRAIL発現が低下すること、ApoE KOマウスでは、wild typeと比較して、肝臓内のNK細胞の割合、活性及び細胞傷害活性が低下していることを報告した。 最終年度はApoE KOマウスとwild typeの肝組織をマイクロアレイで解析すると、IL-6シグナル経路が活性化しており、TRAILに関与する遺伝子としてオステオプロテゲリン(OPG)を同定した。OPGはTRAIL結合を阻害する物質として知られ、OPG KOマウスの肝内在性NK細胞は有意にTRAIL発現が上昇していた。肝細胞癌初回肝切除患者の血清OPG濃度は、肝切除後の予後及び再発に有意に関連していた。 本研究結果から大動脈石灰化における肝内在性NK細胞機能低下には、TRAILを阻害する物質であるOPGが関与していることが明らかとなった。
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