癌死亡の90%は転移に起因しているが、転移のメカニズムは未だ明らかでない。大腸癌の転移再発は、原発巣の外科的な切除後2年以内に生じることが多い。このことから申請者は、原発巣は何らかの転移抑制シグナルを産生し転移巣の増殖を制御しているが、原発巣の切除によりその抑制シグナルが消失することで転移の発症が促進される可能性を想像している。また、高転移性癌では、癌間質の主な構成細胞である線維芽細胞(CAFs) がこの原発巣由来の転移抑制シグナルを阻害することにより、結果として転移を促進していることが予測される。 申請研究では、原発巣由来の転移抑制シグナルを同定し新規転移抑制治療の基礎を確立することを目標とする。 本研究において22例の手術により摘出された大腸癌部および非癌部の検体を採取した。これらの検体を酵素処理後、primary cultureし21例でCAFsおよびコントロールの線維芽細胞のペーアーでの樹立に成功した。また、がん組織の一部を酵素処理し8症例の大腸癌オルガノイドも樹立した。上皮細胞、間葉系細胞や血球系細胞に特異的な抗体を使用した免疫組織染色を施行し純度の高い線維芽細胞が樹立されていることが確認された。本年度の研究実績として、研究に必要な臨床サンプルからの線維芽細胞とヒト大腸癌オルガノイドの樹立に成功したことがあげられる。 原発巣由来の転移抑制シグナルを同定する為に、研究室で長期培養後に株化された悪性度の高い細胞株は使用せずに、患者由来のオルガノイドを使用した大腸癌PDXモデルを樹立予定である。しかしながら、2,3例のオルガノイドを高度免疫不全マウスの皮下に移植し癌の形成能を検討したが、癌増殖が非常に遅く、移植後2カ月以内に癌を形成することはなかった。今後6-12か月後に癌の形成が見られた場合は、PDXより癌オルガノイドを樹立し実験に用いることも検討したい。
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