研究課題
大腸癌の生存率向上のためには、再発・転移巣の制御が極めて重要である。次世代シーケンシングなどの解析手法の進歩によって、ゲノム情報を中心に転移性大腸癌の分子生物学的な知見は集積しつつあるものの、有効な治療法の開発には至っていない。そこで、本研究では、プロテオミクスを用いた革新的なアプローチによって、転移性大腸癌の克服に取り組む。細胞表面タンパク質は、癌において機能的に重要な役割を果たしているだけでなく、その局在から、直接的な治療標的としても非常に有望である。細胞表面タンパク質は細胞内タンパク質に比べて極めて微量であることから、本研究では転移性大腸癌患者から採取された臨床検体を用いて患者腫瘍組織移植(patient-derived xenograft; PDX)モデルを作成し、PDX腫瘍を用いて細胞表面タンパク質(サーフェスオーム)解析を行う。現在までに、大腸癌原発巣39例、肝転移巣15例からのPDXモデルを作成した。原発巣、肝転移巣各12症例(うちペア4症例)から得られたPDX腫瘍について、サーフェスオーム解析、リン酸化プロテオーム解析、RNAシーケンス解析が完了し、データ解析を進めている。また、並行して進めていた、in vivo selectionにより樹立した高転移性マウスCT26大腸癌細胞株の解析から、腹膜播種に関連する分子を同定した。今後は、PDX腫瘍の多層オミクス解析を完了し、肝転移に重要な新規治療標的分子を探索同定すると共に、腹膜播種関連分子のさらなる機能解析を進める。
2: おおむね順調に進展している
現在までに、大腸癌原発巣39例、肝転移巣15例からの患者腫瘍組織移植(PDX)モデルを作成した。このうち5症例においては、原発巣と肝転移巣のペアとして作成できた。また、大腸癌原発巣11例、肝転移巣9例から患者腫瘍由来細胞株(PDC)を樹立した。原発巣、肝転移巣各12症例(うちペア4症例)から得られたPDX腫瘍について、サーフェスオーム解析、リン酸化プロテオーム解析、RNAシーケンス解析が完了し、現在データ解析を進めている。また、マウスCT26大腸癌細胞株を用いたin vivo selectionにより、肝転移、リンパ節転移、腹膜播種をそれぞれ高頻度に起こす亜株と、転移を起こしにくい亜株をそれぞれ樹立した。低転移性亜株に比べ、各高転移性亜株では高い遊走・浸潤能を獲得していた。各亜株において、RNAシーケンス解析と多層プロテオーム解析を行い、分子プロファイルを比較したところ、特に転移関連分子Aが、腹膜播種亜株で高発現していることを見出した。腹膜播種亜株において、siRNAを用いた分子Aのノックダウンにより、細胞の遊走浸潤能が著名に低下し、分子Aが大腸癌腹膜播種において重要な役割を果していることが示唆された。
PDXモデルの作成を継続するとともに、オミクス解析を行ったPDX腫瘍についてエクソーム解析を行い、多層オミクス解析を完了する。原発巣と肝転移巣PDX腫瘍の多層オミクスプロファイルを比較し、肝転移形成にかかわる新規治療標的分子を同定する。腹膜播種に関連する分子Aについては、その発現誘導や下流シグナルにかかわる分子メカニズムを明らかにする。また免疫組織学的染色を行って腹膜播種の予測マーカーとしての有効性を検討する。
コロナ禍により、プロテオーム解析計画にずれが生じたため、次年度使用額が生じた。解析計画を修正し、今年度使用する予定である。
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Cancers
巻: 13 ページ: 3642
10.3390/cancers13143642