研究課題/領域番号 |
20K09136
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
佐々木 孝 日本医科大学, 医学部, 准教授 (80350065)
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研究分担者 |
宮城 泰雄 日本医科大学, 医学部, 准教授 (00350116)
深澤 隆治 日本医科大学, 医学部, 非常勤講師 (80277566)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 薬剤性心筋障害 / 線維化 / 肺動脈絞扼術 |
研究実績の概要 |
アドリアマイシン投与による薬剤性心筋障害モデルラットの心臓病理評価を行った。前年度はアドリアマイシン投与後6ヵ月経過したラットに心臓カテーテル検査を行い、正常ラットに比べてstroke volumeが大きく、EFが低く、拡張能が低下していることがわかった。今年度は犠牲死後に心臓の病理評価を行った。マッソン・トリクローム染色で線維化した領域を計測すると、全領域の8~15%であることがわかった。以上からアドリアマイシン投与にて作製したラットの薬剤性心筋障害モデルは、拡張型心筋症を模したモデルとして妥当であると判断した。 肺動脈絞扼術に関する綜説を執筆した。肺動脈絞扼術は、従来心内短絡のある肺血流増加型の先天性心疾患に対する姑息術(修復術への準備手術)として施行されてきたが、最近重症拡張型心筋症の小児患者に対して施行するという新しい適応が加わった。肺動脈絞扼術の本来の適応から新しい適応まで、その手技や臨床成績について文献をまとめ、綜説として報告した。 ラットに対する肺動脈絞扼術の手技を取得した。ラットへの肺動脈絞扼術は、細いモノプロピレン糸を用い、注射針のサイズを目安に主肺動脈の絞扼の程度を決める方法がとられてきた。常に同程度の絞扼を続けることは容易ではなく、外科クリップを用いて常に同程度の絞扼ができるよう手術を行う方針とした。200~300gのラットの主肺動脈を絞扼する際、18ゲージの注射針を主肺動脈と一緒に結紮し、のちに18ゲージ針を引き抜くというやり方がとられているが、同程度の絞扼を外科クリップで再現するため、クリップのアプライヤーにストッパーをつけ、クリップをつけた際に18ゲージ針と同程度のスペースができるようにした。主肺動脈へのアプローチは胸骨正中切開と左側開胸の選択肢があったが、8頭のパイロットスタディから、左側開胸の方が良好な視野が得られることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究のテーマは、小児拡張型心筋症に対する肺動脈絞扼術の有効性の検討である。実験の概要は①ラットにアドリアマイシンを投与し薬剤性心筋障害モデルを作成すること、②薬剤性心筋障害モデルのラットに肺動脈絞扼術を施行し、心機能の変化や心筋線維化の軽減などの病理組織学的評価をすること、そして③肺動脈絞扼術による心機能改善のメカニズムを明らかにすることである。 前年度の研究では、①ラット薬剤性心筋障害モデルの心機能を、心臓カテーテル検査で評価するところまで進めることができた。アドリアマイシンによる心筋障害モデルでは、心係数は保たれているが、左室拡大が著しいことがわかった。また左室の拡張特性は保てれているが、収縮性は低下していることが特徴的であった。小児拡張型心筋症のモデルとして妥当であることを確認できた。今年度は心臓の病理評価を行い、アドリアマイシン投与により心筋障害を起こしたラット心では、心筋の線維化がwhole heartの8~15%と、正常心より広い領域であることがわかった。 ②の薬剤心筋障害モデルに肺動脈絞扼術を行うことであるが、今年度は正常心のラットに肺動脈絞扼術を施行した。左側開胸でアプローチすること、主肺動脈を絞扼するために従来のモノプロピレン糸による結紮ではなく、半閉鎖型の外科クリップで絞扼することで、絞扼程度の誤差が減ずるよう心がけた。今までに8頭のラットに肺動脈絞扼術を施行し、生存率は50%程度であるが、手技の経験値が上がれば生存率も改善することが予想される。 研究が遅延した理由は、ラットに対する肺動脈絞扼術の手技の取得、特に主肺動脈へのアプローチの選択(胸骨正中切開か左側開胸か)や、半閉鎖型外科クリップの開発に時間を要したためである。
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今後の研究の推進方策 |
今までの3年間で、拡張型心筋症を模したラットの薬剤性心筋症モデルの作製、正常心ラットへの肺動脈絞扼術の手技の獲得が達成できた。4年目の研究計画は、ラット薬剤性心筋障害モデルに肺動脈絞扼術を行い、心機能の変化を評価する。4週齢ラットに2週間アドリアマイシンの投与を行い、6週齢時にPABを施行する。全身麻酔導入後、左側開胸でアプローチし、主肺動脈にクリッピングを行う。10週齢時(4週後)に心エコー、心臓カテーテル検査を行い犠牲死させ、心臓の病理組織学的評価を行う。 薬剤性心筋障害モデルの作成から、PAB、そして術後評価まで6週間必要である。12匹の4週齢ラットにアドリアマイシンを投与し、2週後にPABを行う群(N= 6)、Sham手術(薬剤性心筋障害モデルのラットに開胸操作のみ行う)を行う群(N=6)に分け、術後評価を行う。PAB群とSham手術群で術後評価の値が20~30%異なると想定し、95%検出力、α=0.05とすると、各郡6匹のサンプル数が必要である。薬剤性心筋症モデルのラットへのPAB施行後の生存率を50%と仮定すると、要件を満たすサンプル数を得るために最低2クール(=12週間)の実験を行う予定である。得られたデータを整理し、学会への抄録提出、論文作成を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、研究が遅延しており、必要な動物、薬剤の購入、解析に必要な経費を使用しなかったためである。 ただし今年度までにラット薬剤性心筋障害モデルの作製や、ラットへの肺動脈絞扼術の手技獲得といった、研究を進めるための土台はできており、研究を最後まで進めることができる状況になった。翌年度に研究遂行の必要経費として使用する予定である。
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