研究実績の概要 |
広範囲心筋梗塞では、壊死心筋の激しい炎症の後、線維化組織に置換され、時間とともにリモデリングが進行し、心腔拡大や収縮障害、最終的に重症心不全を引き起こす。心筋梗塞部位では過剰な炎症状態と血管新生・線維化組織の誘導が観察されるが、炎症/抗炎症バランスが改善されず梗塞後リモデリングが進行して心機能がさらに低下する。近年、研究代表者らは、慢性炎症を呈する動脈硬化性大動脈瘤モデルにおいて間葉系幹細胞(MSC)療法の有効性を示し、MSC産生因子に抗炎症作用・組織修復に関わるProgranulin(PGRN)およびセリンプロテアーゼ阻害因子 Secretory leukocyte proteinase inhibitor (SLPI)が含まれていることを見出した。この知見から、PGRN, SLPIは心筋梗塞における炎症/抗炎症バランスを改善し、梗塞後リモデリングを抑制しうる仮説を立てた。本研究では、PGRN, SLPIによる心筋梗塞治療効果を検証するため、In vitroにて培養マクロファージに対するrPGRN, SLPIの作用について調べた。LPSまたはTNF-α/INF-γで24時間炎症刺激した炎症性M1マクロファージ(M1MF)に対し、rPGRN, rSLPIを添加して24時間培養後にM1MFからRNA抽出して遺伝子発現の定量比較を行った(PGRN群、SLPI群、各n=5)。比較対象群には何も添加しない無添加群(n=5)を用いた。無添加群に比べ、PGRN群とSLPI群でIL-1β, IL-6, MCP-1, iNOS遺伝子発現量が有意に低下した。さらにSLPI群は、TNF-α遺伝子発現量が有意に低下した一方で、IL-10, TGF-β1遺伝子発現量が有意に上昇した。これらの結果から、SLPIは炎症/抗炎症バランスを改善させる可能性が示唆された。
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