研究課題/領域番号 |
20K09150
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
古山 正 九州大学, 大学病院, 講師 (00419590)
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研究分担者 |
松本 拓也 独立行政法人国立病院機構福岡東医療センター(臨床研究部), 独立行政法人国立病院機構福岡東医療センター臨床研究部, 血管外科医長 (20374168)
森崎 浩一 九州大学, 大学病院, 助教 (30625801)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 腹部大動脈瘤 / 腸内細菌 |
研究実績の概要 |
我々は、腹部大動脈瘤の形成に腸内細菌が関与しているのではないかと考え、腹部大動脈瘤に対して開腹人工血管置換術を施行する症例の臨床情報(年齢、性別、既往歴、手術歴、検体検査結果等)を得て、術前に便を、手術の際に清潔操作下に動脈血、大動脈瘤血管壁、血栓を採取した。腹部大動脈瘤の瘤壁、瘤内血栓および血液からRNAを抽出し、そのRNAを標的として、22種類の菌群、菌種特異的プライマーを用いたRT-PCRにより細菌を検出・定量した。同症例で術前に採取した便の菌叢解析を次世代シーケンサ(MiSeq)で行った。シーケンスデータは、QIIME(www.qiime.org)を用いて多様性について解析した。微生物学的α多様性はShannon指数とChao1で評価した。α多様性は種の豊富さと均等度の観点で評価されるが、Shannon指数は種の豊富さと均等度の双方を反映しており、Chao1はコミュニティにおける種の数を評価することで、豊富さを表すとされる。腸内細菌叢の乱れはFirmicutes門とBacteroidetes門の比(F/B比)で評価した。炎症の指標として手術2日前の末梢血球計算から好中球-リンパ球比(NLR)とリンパ球-単球比(LMR)を測定した。NLRとLMRは血中の好中球、リンパ球、単球の絶対数から計算した。瘤内血栓の厚みは術前のCT検査の体軸断面像での動脈瘤最大径スライスにおける最大の厚みと定義した。瘤内血栓量は造影CT検査における同スライスの動脈瘤内腔に対する瘤内血栓の比率で求めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は患者30名から動脈瘤壁と血液の検体を採取した。患者の年齢の中央値は66.9歳(44–88歳)、男性の割合が93%、喫煙歴を有する患者も93%であった。63%の血液、37%の動脈瘤壁から細菌が検出され、手術適応となったAAA患者において高頻度にBacterial translocationが起こっていることが観察され、腹部大動脈瘤の発生・進行と腸内細菌との関連性が示唆された。血液と動脈瘤壁の両検体から細菌が検出されたのは8例であった。また、動脈瘤壁から検出された細菌は、臨床で病原性を示すものが多く、腹部大動脈瘤形成への炎症反応の影響が考えられた。Shannon指数とChao1の中央値はそれぞれ、6.2(4.5–7.6)、2545(1143–4617)であった。Bacteroidetes門の構成比の中央値は3.0%で、F/B比の中央値は39.7で、腹部大動脈瘤患者の腸内細菌叢の乱れが示唆された。α-diversityと細菌検出との関連は有意差が無かった。瘤壁より細菌が検出された症例では大動脈瘤内血栓の割合が高く、血液より細菌が検出された症例では血液中の単球割合が高く、リンパ球割合が低かった。
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今後の研究の推進方策 |
大動脈瘤では炎症細胞が外膜と中膜に浸潤し、中膜の結合組織(エラスチン・コラーゲン)の変性に関与することがよく知られている。最近の局在を観察し、細菌が中外膜に存在すると炎症細胞との関連が、また、内膜に存在すると血栓形成との関連が示唆されることになる。
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