研究課題/領域番号 |
20K09154
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
川人 宏次 自治医科大学, 医学部, 教授 (90281740)
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研究分担者 |
坂元 尚哉 東京都立大学, システムデザイン研究科, 准教授 (20361115)
木村 直行 自治医科大学, 医学部, 教授 (20382898)
中村 匡徳 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20448046)
相澤 啓 自治医科大学, 医学部, 准教授 (50398517)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 大動脈二尖弁 / 内皮細動-平滑筋細胞共培養モデル / 壁せん断応力 / MMP |
研究実績の概要 |
大動脈二尖弁は半数の症例で上行大動脈が瘤化する。本疾患の組織学特徴は血管平滑筋細胞減少と弾性線維変性であり、これらの変化には血管内皮細胞へのせん断応力などの血行力学因子の関与が示唆されている。本研究では血管内皮細胞と血管平滑筋細胞の共培養モデルを用いて、疾患環境を模倣した高せん断応力下での血管内皮細胞と血管平滑筋細胞の形態・機能変化を解析し関連性を検討する。 2020年度は、予備研究として、大動脈弁二尖弁狭窄症(BAV-AS)例290例を対象に血管内皮細胞機能の臨床的指標の1つである脈波伝達速度を計測した。結果は、大動脈弁三尖弁狭窄症例(TAV-AS)616例と比較し平均血圧に差はなかったが、上腕足首脈波伝達速度はBAV-AS群で低下していた(1490 [1290, 1691] vs. 1270 [1103, 1441], p<0.001)。傾向スコアマッチング後も同様の結果が得られ、TAV-ASと比較し、BAV-ASは異なるaortic stiffnessを呈する可能性が示唆された(2021年2月19-21日 第51回日本心臓血管外科学会で発表)。また、大動脈二尖弁の癒合形態が上行大動脈拡大に及ぼす影響も解析し、Sievers type 0 lat型(raphe無6時18時型)が大動脈弁閉鎖不全症の合併頻度が少なく上行大動脈拡大を呈しやすいことを明らかにした(2021年5月19-21日 第49回日本血管外科学会で発表予定)。 東京都立大学坂元准教授の研究室と共同で血管内皮細動-血管平滑筋細胞共培養モデルを用いた研究も実施し、matrix metalloproteinases(MMPs)産生に対する壁せん断応力刺激の影響を調査した。結果は、内皮細胞のMMP-2産生および平滑筋細胞のMMP-9産生において壁せん断応力の大きさに依存した増加傾向を認めた(2020年5月25-27日 生体医工学会で発表)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自治医科大学の臨床研究倫理委員会の承認の元、東京都立大学坂元尚哉准教授の研究室および日名古屋工業大学中村教授の研究室と共同で、大動脈二尖弁症例の異常血流が大動脈組織の変性や恒常性変化に及ぼす影響を、臨床データとin vitro実験モデルを使用して多角的に検証する。 2020年度は、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、本研究に関する検体採取及び関連実験も影響を受けた。具体的には、当該研究施設だけでなく、共同研究施設である東京都立大学と名古屋工業大学でも、学生教育業務や実験活動に制限が生じ、研究実験の実施が難しい時期もあったが、全体的な進捗状況としては概ね順調に進展している。 2020年度は、予備研究として、大動脈弁二尖弁狭窄症例を対象に血管内皮細胞機能の臨床的指標の1つである脈波伝達速度を計測した。近年、脈波伝達速度は動脈硬化の進展度を示す非侵襲的生理検査として注目を集めているが、大動脈弁狭窄症を対象に解析を行った研究は少なく、大動脈二尖弁症例を対象とした臨床研究もない。大動脈二尖弁症例のaortic stiffnessに関する臨床研究は新規性が高く今後論文化の予定である。 血管内皮細動-血管平滑筋細胞を使用した共培養実験は、ヒト大動脈弁狭窄症の疾患環境をシミュレーションした高せん断応力負荷(20Pa)が実施可能な実験モデルであり、これまで東京都立大学で本実験を施行してきた。血行力学ストレスに対する生体反応として、様々なせん断応力負荷の設定を行い、血管内皮細胞および血管平滑筋細胞からのMMP産生や血管平滑筋細胞のphenotype変化を中心に解析してきた。今後は血管内皮細胞と血管平滑筋細胞のsignal transductionや、TNFやTGFなど既報告の大動脈中膜組織の恒常性維持に影響を及ぼすサイトカインの影響も併せて解析する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後も共同研究機関である東京都立大学と名古屋工業大学と共同で、大動脈二尖弁症例の臨床データと血管内皮細動-血管平滑筋細胞を使用した共培養実験モデルを使用した研究を継続する。2020年度は、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、本研究プロジェクトも影響も受けた。一方、定期的なオンライン会議をこれまでも実施してきたが、今後も継続して行い、各分担分野の進捗状況の確認を緊密に行う予定である。 臨床データを用いる研究では、血管内皮細胞機能の指標である脈波伝達速度の治療前後の比較も今後行い、予後予測因子としての有用性を評価する予定である。また、大動脈弁置換術後の上行大動脈拡大の推移も検証し、大動脈弁置換手術による異常血流の是正が上行大動脈拡大に及ぼす影響も今後解析する。 大動脈組織細胞(human aortic endothelial cell; HAEC)とヒト大動脈血管平滑筋細胞(human aortic smooth muscle cell; HAoSMC)を使用する共培養実験では、異なるせん断応力負荷を設定し、MMP/TIMP関連分子の他、血管平滑筋細胞の収縮/合成型phenotypeのmarker(α-SMA・calponin・SM-1・SMemb・tropomyosin4)やapoptosis関連marker(caspase enzymes・Bax・Bcl-2・annexin V) などの発現も、qRT-PCRやwestern blotting法を用いて計測する予定である。また、TNFやTGFなどのサイトカインを共培養実験モデルに添加し、せん断応力負荷環境下で、これらのサイトカインが血管内皮細胞や血管平滑筋細胞に及ぼす影響も解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今回、2020年分で残金が生じたため、 2021年度への繰り越使用額が発生した。次年度繰り越額が発生した主な理由としては、当該研究機関及び共同研究機関である名古屋工業大学および東京都立大学で、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大による研究活動制限期間が設けられたことが挙げられる。また、直接的な影響ではないが、感染拡大に伴い、オンライン教育システムの構築にも多くのeffortが費やされたため、予定されていた実験計画に影響が出た。 繰り越金を含めた2021年の使用予定金額は以下のとおりである。共培養実験では、Lonza社からヒト大動脈組織細胞(HAEC・HAoSMC)を購入予定である。ヒト大動脈組織細胞の購入費用・共培養モデルの維持費として40万円、また同実験モデルの解析実験(Zymography・qRT-PCR・western blottingなど)費用として100万円、学会発表・英文論文校正などの費用に10万円程度の支出を予定している 。
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