研究実績の概要 |
我々が独自に確立した抗原特異的疲弊化CD8T細胞を生体内の10-50倍程度誘導するモデルを用いて,その疲弊化に関与する各免疫チェックポイント分子(PD-1,CTLA-4,LAG-3,TIM-3,TIGIT)の役割を明らかにし,有効な癌免疫療法の開発を行うために研究をすすめてきた.モデルでは,OT-Iマウス(OVA257-264特異的T細胞レセプタートランスジェニックマウス)の脾臓からナイーブCD8T細胞を単離しC57BL/6マウスに移入後,EG.7(卵白アルブミン産生EL-4細胞)を皮下接種し,抗原特異的疲弊化CD8T細胞(疲弊化OT-I細胞)を誘導し解析した.前年度までに疲弊化OT-I細胞は各免疫チェックポイント分子(LAG-3,TIM-3,TIGIT)が一部の細胞のみで発現するヘテロな細胞集団で,さらにそれらの発現時期が異なることを明らかにした.それらの免疫チェックポイント分子が抗PD-1抗体治療の耐性に関与する可能性を考え,同モデルで抗PD-1抗体を投与し各免疫チェックポイント分子の発現への影響を検討した.抗PD-1抗体投与後,OT-I細胞のTIGIT発現がTILとリンパ節で上昇し,LAG-3発現がTILで上昇した.これらから抗PD-1抗体治療の耐性メカニズムにTIGITとLAG-3が関与している可能性が示唆された.そこで抗PD-1抗体に抗TIIGT抗体を併用し抗腫瘍効果とOT-I細胞への影響を調べた.コントロール群と比較し抗PD-1抗体単独または抗TIGIT抗体単独投与でそれぞれ抗腫瘍効果およびOT-I増加を認めたが,抗PD-1抗体と抗TIGIT抗体併用により単独投与より顕著な腫瘍増殖抑制効果とさらなるOT-I細胞の増加を認め,併用群でペプチド刺激後のIFN-γ産生が顕著に増加していた.一方抗LAG-3抗体併用では抗腫瘍効果とOT-1細胞の増加はなかった.このことから抗原特異的CD8T細胞におけるTIGIT発現上昇が抗PD-1抗体治療の耐性メカニズムとなっている可能性が示唆され,それは併用療法で克服可能であった.
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