研究課題/領域番号 |
20K09161
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長岡 孝治 東京大学, 医学部附属病院, 特任助教 (80649799)
|
研究分担者 |
垣見 和宏 東京大学, 医学部附属病院, 特任教授 (80273358)
金関 貴幸 札幌医科大学, 医学部, 講師 (50531266)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ネオアンチゲン / 肺がん |
研究実績の概要 |
マウス肺がんモデルで、腫瘍内T細胞浸潤の多いASB-XIVと、少ないLLC1について検討を行った。ASB-XIV細胞株からDNA、RNAを抽出し、全エクソームシークエンス、RNAシークエンスを実施し、1410個のミスセンス変異を同定した。RNAシークエンスでFPKM≧1の遺伝子に絞り込み、変異を含む8-10merのエピトープのMHCクラスIへの結合予測をNetMHCpanおよびMHCflurryを用いて行った。NetMHCpanで変異エピトープのIC50が500nM以下となる87ペプチド、変異エピトープに対して野生型エピトープのIC50が10倍以上となる20ペプチド、MHCflurryでpresentation percentileが2以下となる256のエピトープのうち、NetMHCpanで予測されなかった196ペプチド、合計303ペプチドを合成した。 ASB-XIVを抗PD-1抗体、または抗CTLA-4抗体を投与して拒絶させたマウスの脾細胞をASB-XIV細胞で刺激して培養することで、ASB-XIVに反応するCD8+T細胞株を樹立した。このCD8+T細胞株をASB-XIV担がんマウスに投与すると、腫瘍が退縮した。このCD8+T細胞株に対して303個の合成ペプチドのスクリーニングを行ったところ、1つのペプチドに反応が認められた。 LLC1については、腫瘍内に浸潤するT細胞が少ないことが問題だったが、CpGを投与することにより、CD8+T細胞の浸潤が増加することが明らかとなった。しかしながらCpG単独およびCpGと抗PD-1抗体との併用ではLLC1腫瘍は退縮しなかった。 肺がん手術検体でネオアンチゲン特異的T細胞を検討するために、シークエンス用に23件の手術検体を保存し、このうち19件についてはT細胞を培養して保存した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肺がんでは、T細胞浸潤の多い患者には抗PD-1抗体が効くが、少ない患者には効かない。本研究ではマウス肺がんモデルで、腫瘍内T細胞浸潤の多いASB-XIVと、少ないLLC1について、ネオアンチゲンをターゲットとした免疫治療の検討を行う。令和2年度は、ASB-XIV細胞株の全エクソームシークエンス、RNAシークエンスを行い、これらのデータに基づきネオアンチゲン予測を行い、計303個のペプチドを合成した。これにより、本研究の基礎となる材料を揃えることができた。 さらに、ASB-XIVに反応するCD8+T細胞株を樹立した。樹立したCD8+T細胞株を用いて、ネオアンチゲンペプチドのスクリーニングを行い、このT細胞株が認識するネオアンチゲンペプチドを同定した。これにより令和3年度にはこのネオアンチゲンをターゲットとした免疫治療を行うことが可能となった。 LLC1については、すでに132個のペプチドを合成しており、これらのうち25個のペプチドがCD8+T細胞応答を誘導することを明らかにしている。しかしながらネオアンチゲンワクチン単独では、LLC1腫瘍を退縮させることはできていない。LLC1腫瘍には、CD8+T細胞の浸潤が少ないため、ワクチンに加えてT細胞の腫瘍内浸潤を増強させる治療との併用が必要であると考えられた。そこで令和2年度はCpGをあらかじめマウスに投与しておくと、CD8+T細胞の腫瘍内浸潤が増加することを明らかにした。CpG単独または、CpGと抗PD-1抗体の併用では腫瘍を退縮させることができなかったため、腫瘍特異的なT細胞を誘導するためのネオアンチゲンワクチンとの併用が必要であることが示唆された。これにより令和3年度にはネオアンチゲンワクチンとCpGの併用治療を検討することが可能となった。 肺がん手術検体での検証を行うための、検体保存も進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
ASB-XIVについては、ネオアンチゲン特異的CD8+T細胞株の投与、ネオアンチゲンDCワクチンなど、ネオアンチゲンをターゲットとした免疫治療を検討する。 LLC1については、ネオアンチゲンワクチンとCpG、抗PD-1抗体、抗CTLA-4抗体との併用を検討する。 LLC1はこれまで、どの治療を行っても腫瘍を退縮させることができておらず、腫瘍内に強い免疫抑制が存在していることが示唆される。抑制機構を明らかにするために、ASB-XIVとLLC1の腫瘍組織のトランスクリプトーム解析を行う。 また、肺がん手術検体を用いて、全エクソン解析、トランスクリプトーム解析を行い、ネオアンチゲン予測を行う。
|