研究課題
原発性肺癌は完全切除が行われても再発率は約50%あり、5年生存率も40~60%と未だ難治性ともいえる癌であり、手術に加えて薬物治療を必要とする集学的治療が必須であり、正確な適応基準の解明は重要な課題である。腫瘍内遺伝子多様性(intratumor heterogeneity)は治療の感受性や耐性を規定する重要な因子であり、近年の次世代シーケンサー(NGS)の開発により、その解析が可能となり臨床に導入されるに至った。本研究では、手術時の標本から早期変異(clonal)主体の癌細胞と進展変異(subclonal)を有する癌細胞という空間的多様性を検討する。これで得られたsubcloneを指標に、手術後の定期的な血液解析と再発時腫瘍組織の解析(molecular monitoring)から再発早期発見や治療開始の指標とする。本研究の成果により、正確な手術を含めた治療基準の設定、集学的治療の適応、種々の治療の適応、再発前の早期治療開始などに結び付くことができる可能性を有した重要な研究課題である。本研究では、非小細胞肺癌の手術症例のドライバー遺伝子陽性症例と陰性症例の、原発巣およびリンパ節転移巣・遠隔転移巣から核酸を抽出し、NGSにより網羅的遺伝子解析を行い、遺伝子変異の進化系統樹を作成することで遺伝子多様性・腫瘍内不均一性(空間的多様性)を明確にする。また、同一患者の術後経過観察中の血液を定期的に採取し、cfDNAを調整し、NGSによる遺伝子解析を行い、切除検体試料に認められた遺伝子変異の検出を試みる。さらに術後再発症例やその治療経過中の組織検体と血液検体(cfDNA)からのNGS解析(時間的多様性)により、腫瘍クローンを追跡し、治療効果との関連や耐性との関係を解析し、新たな治療体系の構築・開発に結び付けることを目的とする。
3: やや遅れている
非小細胞肺癌の手術症例のドライバー遺伝子陽性症例と陰性症例について、原発巣およびリンパ節転移巣・遠隔転移巣から核酸を抽出し、NGSにより網羅的遺伝子解析を行い、遺伝子変異の進化系統樹(phylogenetic tree)を作成することで遺伝子多様性・腫瘍内不均一性(空間的多様性)を明確にする。次に、病理病期II~III期の非小細胞肺癌患者の術後経過観察中の血液を定期的(約6か月毎)に採取し、cfDNAを調整し、NGSによる遺伝子解析を行い、手術時の切除検体試料に認められた遺伝子変異の検出を確認するとともに、相違点を解析する。再発時、薬剤投与後耐性時には血液採取とともに再発組織を採取しNGS解析を行い、再発の因子を検討する。この遺伝子変異の系統樹(phylogenetic tree)を作成し、時間的多様性を検討する。初年度は、切除標本の肺癌原発巣のドライバー遺伝子の解析を行い、2020年4月から2021年3月までの58例の腺癌のうちEGFR変異24例、ALK1例、KRAS2例、RET1例、ERBB-2 1例を認めた。これら変異陽性症例のうちII, III期はEGFR2例(L858R, 19del)、ALK1例のみであった。これらについて、継時的に血液採取を予定した。本研究の対象となるII, III期のドライバー遺伝子変異症例が予想より少なかったため、過去の肺癌手術症例で再発し、継時的に組織標本(切除、生検)や血液を採取した症例も対象として同意取得を行い、それらの解析を今後予定している。また、主にドライバー遺伝子変異陰性症例の腫瘍免疫のT細胞解析を、MHC class I/II発現とβカテニン経路から免疫組織化学的に解析を進め、いずれの発現もドライバー遺伝子変異陽性症例に比較し有意に亢進していることが認められた。
本研究は、癌の遺伝子変異の進化系統樹(phylogenetic tree)を作成することで遺伝子多様性・腫瘍内不均一性の持つ臨床的意義(予後予測、薬剤感受性)を解明するための基礎になる研究である。また、血液のcfDNA解析から分子レベルでの再発の早期発見のバイオマーカーを確立することが目標であり、診断と新たな治療開発の基盤となる。経時的な検体採取において新たな遺伝子変異が同定できない場合(時間的多様性)でも、原発巣と転移巣の進化系統樹の作成は可能であり、そこから得られる情報は有用である。今年度は、これまでに採取したサンプルについて、予定の解析を進める。
研究対象となる非小細胞肺癌II-III期のドライバー遺伝子変異症例が予想より少なく、標本の採取のみにとどまり、解析に進んでいない。2年目にさらに症例と標本を採取し、解析に入る予定とした。そのため、初年度に予定した予算を2年目に繰り越すこととした。
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