研究課題/領域番号 |
20K09190
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 伸子 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (80332609)
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研究分担者 |
星野 陽子 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (80920503)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 疼痛学 / 脂質 / 神経科学 |
研究実績の概要 |
急性組織障害性炎症性疼痛の病態形成に対し、リゾホスファチジン酸(LPA)がどのように関与しているのか解明する。LPAは①組織障害時にホスホリパーゼA2(PLA2)を初発酵素として産生される生理活性脂質の一つであり、また別経路として②血液中や髄液中の変換酵素Autotaxin (ATX)によってリゾホスファチジルコリン(LPC)より産生される。組織障害早期にLPAがどこで産生され、どの受容体を介し、末梢組織レベル・神経節レベル・脊髄レベルでどのような変化をもたらすのか解明する。それらを適切な時期に抑制することにより疼痛遷延化を阻止し、効果的な治療法を開発することが本研究の目的である。 当該年度は急性組織障害性疼痛モデルとして古典的に知られているホルマリンテストを用い、LPA1/3受容体拮抗薬の疼痛抑制メカニズムについて解析を進めた。LPA1/3受容体拮抗薬前投与により、ホルマリン足底注入による侵害受容反応は有意に抑制されていた。LPA1受容体の発現は足底組織よりも腰部後根神経節の衛星細胞に認められ、特にAdelta神経細胞周囲の衛星細胞に発現していた。ホルマリン足底注入によりこれら衛星細胞でpERK活性化が認められたが、LPA1/3受容体拮抗薬により抑制されていた。このモデルの足底組織中で数種のLPC分子種の上昇が、さらに腰部後根神経節で数種のLPA分子種の上昇が認められた。急性組織障害により、後根神経節でLPA産生が増加し、後根神経節に存在する衛星細胞のLPA1受容体を介して急性疼痛が修飾されていることが示唆され、論文報告した。LPA1受容体が新たな急性疼痛治療ターゲットとなり得ることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脊柱管狭窄症モデルでの解析に加えて、急性組織障害性疼痛モデルを用いた解析が進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
LPA1/3受容体拮抗薬の疼痛への効果が判明したことから、LPA1受容体欠損マウスについて急性疼痛モデルでの解析を検討する。疼痛に関わるリゾリン脂質として、スフィンゴシンに着目しこれまでの組織サンプル中のスフィンゴ脂質定量やスフィンゴシン1リン酸受容体発現について解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症に伴う研究活動縮小期間があり、継続した動物モデル作成や脂質解析を担っている共同研究者の解析が一時的に停滞していた。LPA1受容体拮抗薬の急性組織障害性疼痛抑制メカニズムについて、中心的役割を果たす神経細胞の同定と後根神経節での脂質解析から研究結果を論文報告できたことから、LPA1受容体欠損マウスでの解析やLPA周辺のリゾリン脂質動態について、今後解析する予定である。
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