研究実績の概要 |
抗癌剤ドキソルビシン投与は、酸化ストレスによって用量依存性に心筋障害を生じる。本研究代表者は以前の研究において、硫化水素代謝産物であるチオ硫酸が 抗酸化作用や抗アポトーシス作用を有し、ドキソルビシン誘導性心不全マウスにおいて心筋保護作用を有することを報告してきたが、そのミトコンドリア機能に 対する影響に関しては解明できていない。本研究では、ドキソルビシン誘導性心筋障害に対してチオ硫酸がミトコンドリアを介した心筋保護効果を発揮するとい う仮説を立て、その作用メカニズムを解明することを目的とする。そのため本研究では、ドキソルビシン誘導性心不全モデルマウスおよび培養心筋細胞を用い て、以下の2項目を解決する:(ア)ドキソルビシンが心筋細胞のミトコンドリア機能に及ぼす影響を検討する。(イ) 心筋細胞内チオ硫酸レベルの変化が、ド キソルビシンによって障害された心筋細胞のミトコンドリア機能に与える効果を検討する。 令和3年度は引き続き培養心筋細胞(ラット心筋由来H9c2細胞)を用いた実験系の確立を目指した。ドキソルビシンおよびチオ硫酸ナトリウムで処理した培養心筋細 胞において、ミトコンドリア機能がどのように保護されるかを評価することを計画した。現時点では、心筋細胞障害を生じるドキソルビシンの濃度、およびそれ を抑制するチオ硫酸ナトリウムの濃度など、条件を検討している。ドキソルビシン0, 0.1, 0.5, 1, 2.5, 5micro-M、およびチオ硫酸ナトリウム0, 0.1, 0.5, 1mMの濃度での細胞の生存率を水溶性テトラゾリウム塩 WST-8を発色試薬として用いて検討した。培養心筋細胞H9c2に対してDOXは用量依存性に毒性を発揮するモデルを作成することに成功した。しかしながら現時点でチオ硫酸ナトリウムによる培養心筋細胞保護効果は証明できていない。
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