循環管理を含めた周術期管理の質は向上しているにも関わらず、危機的大量出血は周術期心停止の最大の要因である。出血による死亡は世界的な問題であり、米国では年間6万人以上、全世界では年間190万人の患者が出血により死亡していると推定され(文献1)、急性期管理を行う医療者にとって危機的出血による循環不全をコントロールし、患者予後を改善する事は重要な責務である。出血の際の循環血液量の減少に対して最初に行う対処法は輸液投与であるが、現在使用されている晶質液、膠質液は共に、過剰投与により合併症を引き起こす可能性があり、その使用が制限される。また大量出血を治療する際には、循環不全改善後の再灌流障害を軽減させることが非常に重要であり、これらの点からより効果的な輸液製剤の登場が求められている。本研究の目的は、出血性ショックモデルラットを用いて水素含有輸液を投与する事による血行動態改善効果、血管内皮表面のグリコカリックス保護効果を検討する事である。 出血性ショックモデル作成後、輸液投与を行い、微小循環の非侵襲的なモニタリングシステムであるSidestream Dark Field(SDF)撮影法を利用したGlycocheckによりグリコカリックス層の厚さの評価を行った。水素含有輸液投与によりグリコカリックス保護効果、心収縮力改善効果が得られ、出血性ショック後の生存率改善効果がみられた。特にグリコカリックス保護効果に関しては、他の輸液(生理食塩水、膠質液)より大きな効果がみられた。また最終年度は各群において活性酸素種の血中濃度の測定を行った。ショック群では出血性ショック後活性酸素種は有意に増加したが、水素含有輸液投与群では活性酸素種の上昇が有意に抑制された。水素含有輸液投与によるグリコカリックス保護効果の一機序として、活性酸素種の上昇を抑制することの関与が考えられる。
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