研究実績の概要 |
吸入麻酔薬がどのように作用し、意識を消失させるのか不明の点が多く残されている。ニューロテンシン神経系は覚醒に関連する神経核に広く投射しているので、吸入麻酔薬の意識消失作用を発揮する過程において、皮質下覚醒系を司る中心的な神経回路として重要な役割を果たしている可能性が考えられる。そこで本研究では吸入麻酔薬の意識消失作用におけるニューロテンシン神経系の役割を検証する。 まず視床下部ニューロテンシン神経細胞の分布と投射先を同定するため、ニューロテンシン神経細胞特異的に蛍光色素を発現させ、全脳にわたり薄切し免疫染色を行った。外側視床下部にニューロテンシン神経細胞が局在し、分界条床核 BNST, 腹側外側視索前野VLPO, 前脳基底部無名質SI, 腹外側中脳水道周囲灰白質vlPAG, 腕傍核PB, 青斑核LCなどの睡眠覚醒系に関与する脳領域に、多くの神経線維を投射していることが明らかになった。また吸入麻酔におけてニューロテンシン神経細胞の活性化がどのような影響を及ぼすかを検討するために、化学遺伝学的手法でマウスの視床下部ニューロテンシン神経細胞を特異的に活性化し、吸入全身麻酔から覚醒するまでの時間を測定した。その結果、ニューロテンシン神経細胞を特異的に活性化すると、全身麻酔からの回復が早くなった。一方、麻酔投与開始から体動が消失するまでの時間は差が無かったため、ニューロテンシン神経細胞は全身麻酔の導入には影響せず、回復期の覚醒に関与することが示唆された。次に、多様な神経線維投射のどれが覚醒に関与するか詳細に検討するため、神経投射先特異的な役割を検討した。神経線維投射先特異的な神経活性を制御するために光遺伝学的手法を用いるが、ベクターの極微量注入と光ファイバー埋め込みを実施し、予備的なデータが得られた。
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