研究課題/領域番号 |
20K09206
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
森崎 浩 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (60182226)
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研究分担者 |
小杉 志都子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (00317249)
加藤 純悟 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (40465018)
寅丸 智子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (70594612)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 術後痛遷延化 / 中枢性炎症 / ミクログリア / 慢性痛 / 変形性膝関節症 |
研究実績の概要 |
3年計画の初年度にあたる本年度では、本研究Iにあたる部分において、これまで蓄積された人工膝関節置換患者45名分の質問票ベースのデータと手術直前に採取した脳脊髄液サンプルの解析結果をもとに、主成分分析を行い各成分と術後痛遷延化との関連を探索した。術後6ヶ月時点において、術後痛遷延化の程度が強い群において、術前の不安や痛みに対する破局的思考が寄与する成分(痛み関連心理社会的因子と解釈)が有意にスコアが高いことが示された(p = 0.001)。また、術後6ヶ月時点での疼痛関連障害度が高い群においては、同様に痛み関連心理社会的因子 (P = 0.001)とともに、脳脊髄液内のIL-6とTNF濃度が主に寄与する成分(中枢性炎症因子と解釈)が有意にスコアが高いことが明らかとなった (p = 0.044)。以上のことより、術前に完成された中枢性炎症反応が何らかの形で術後痛遷延化による機能障害に影響を及ぼしていることが示唆された。 一方、リバーストランスレーショナル研究である本研究IIIにおいては、マウスの足掌切開による術後痛モデルであるBrennanモデルの行動解析および組織解析を進めた。当教室独自のdynamic weight bearingシステムを用いた痛み行動解析では、本モデルでは術後4日目には術前とほぼ同等に戻ることが示されたが、術後7日目の脊髄を解析すると、患側の脊髄後角において有意なミクログリアの活性化が依然継続していることが示された。臨床研究での結果と合わせると、この脊髄後角での活性化ミクログリアの術後痛遷延化への関与に興味がもたれる結果となった
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19の影響により予定手術のキャンセルや研究へのリクルート中断により被験者のリクルートに大きな遅れが生じたが、これまでに蓄積したデータを解析し、一定の結果を提示することができた。また、リバーストランスレーショナル研究の方は、順調であり、モデルの詳細な行動・組織解析が進んでおり、臨床データの還元がいつでもできる準備状況に至ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
研究I・IIの人工膝関節置換術患者の中枢性炎症の可視化および術後痛遷延化の予測マーカーの探索については、今後さらに被験者のリクルートを進めるとともに、これまでに採取した脳脊髄液を解析にまわし、炎症性マーカーやその関連分子に解析を広げていく。また、そこで術後痛遷延化の予測的意義の高い分子が同定された際には、候補分子を選定のうえ、順次マウス術後痛モデルへの投与により、術後痛遷延化への寄与を立証するとともに、その阻害薬の投与による術後痛遷延化の予防効果を探索する。
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