研究課題/領域番号 |
20K09207
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
高橋 由香里 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (20613764)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 扁桃体 / 腕傍核 / 活動依存的分子発現 / 痛みの慢性化 |
研究実績の概要 |
本研究は、様々な痛みにおいてシナプス増強やニューロンの活動増大が報告されている扁桃体中心核に着目し、痛みの慢性化における扁桃体中心核の機能的役割、および、その背景で生じる扁桃体中心核シナプス伝達の可塑的変化機構の解明を目指している。神経活動依存的特異的分子発現法を用いることにより、腕傍核-扁桃体中心核経路での侵害受容情報伝達によって活性化したニューロン(痛み活性化ニューロン)のみを抽出し、光活性化分子チャネルロドプシンや蛍光分子を発現させ痛み活性化ニューロン同士のシナプス伝達を解析することにより、腕傍核・扁桃体が担う多様な機能の中から痛みでの変化を焙り出す戦略をとった。口唇部炎症により活性化される痛み活性化腕傍核ニューロンにチャネルロドプシンを発現させシナプス伝達を記録したところ、痛み活性化腕傍核―痛み活性化扁桃体中心核ニューロン同士のシナプス伝達が非特異的腕傍核―痛み活性化扁桃体中心核ニューロンシナプスに比べて大きな応答が記録された。また、痛み活性化扁桃体中心核ニューロンに興奮性DREADD受容体を発現させ、特異的リガンドdeschloroclozapine(DCZ)によりDREADD受容体発現ニューロンを興奮させたところ、後肢における機械性疼痛閾値の低下が生じた。このことから、口唇部炎症で活性化したニューロンは後肢の異所性痛覚過敏に寄与することが示唆された。しかしながら、疼痛閾値低下以外の行動も誘導されたため、痛み活性化ニューロンには他の行動に関わる情報入力も存在し、情報が統合されている可能性が考えられる。現在、痛み活性化ニューロン標識後4週間以上経過した後にもう一度異なる侵害刺激を与え、それに対する痛み活性化腕傍核―扁桃体中心核シナプス伝達がどのように変化するかを検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
痛み活性化ニューロン特異的分子発現法によって、活動依存的にマーキングされたニューロン間のシナプス結合が強いことが明らかになったが、その現象が、もともとそのシナプスの結合が強かったことに由来するのか、侵害痛み刺激により可塑的変化が生じたために結合が強くなったのかを検討するために、再度異なる侵害刺激を適用しシナプス伝達を比較する実験を進めている。侵害刺激の種類などによって異なる結果が得られており、今後予定よりも結論を得るのに時間を要する可能性がある。計画立案時よりも実際の現象の背景メカニズムは複雑であると推定され、進捗は遅れることが予想されるが、この事実を明らかにせずして先に進めないため、引き続き、痛みの可塑性と慢性化機構にフォーカスを絞り、電気生理学的手法を中心に解析を進めることにより、「痛み活性化ニューロン」、「痛み特異的シナプス」の可塑的変化機構を明らかにするという本研究の目的を達成したい。また、本研究に必要な主たるトランスジェニックマウスの繁殖が予定よりやや滞り、動物が研究推進の律速になってしまった時期があり、進捗に影響した。行動解析については、本年度痛み活性化ニューロンの人工的興奮による疼痛閾値への影響を検討し、次年度痛みの慢性化過程における痛み活性化ニューロンの人工的抑制の影響を検討する予定であり、進捗はおおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
研究推進に伴う予想外の結果により検討に時間を要している点については、今後も得られた結果を随時検討し解析を進めていくに尽きるが、トランスジェニックマウスの供給については対応可能であり、本年度後半からその問題を改善すべく繁殖方針を改めたため、次年度からは改善が見込まれる。次年度は、本年度に引き続き、電気生理学的手法によるシナプスレベルの解析を中心に、痛み活性化ニューロンの活動パターンの変容をシナプスレベルおよび局所ネットワークレベルで解析し、慢性痛における可塑的変化が形成されていく過程を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験動物の繁殖状況等の都合により、3-4月に消耗品使用予定があったため、次年度使用額が生じた。現在本報告を行なっている時点では該当予算はほぼ使用している。
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