研究課題/領域番号 |
20K09216
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
山崎 光章 富山大学, 学術研究部医学系, 教授 (70158145)
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研究分担者 |
成田 年 星薬科大学, 薬学部, 教授 (40318613)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | κオピオイド / ストレス反応 / 遺伝子工学 / 室傍核 / 脳波 |
研究実績の概要 |
痛みと睡眠の悪循環が形成されるメカニズムとしてストレスの関与が注目されている。痛みと睡眠の悪循環において、ストレスによって分泌が増加する内因性オピオイド・ダイノルフィンとその受容体であるκオピオイド受容体の関与があると考え、動物を用いて検討した。 全身麻酔下でマウスの頭蓋骨に穴をあけ硬膜上に脳波電極を、僧帽筋内に筋電図電極を移植することにより脳波と筋電図を記録した。専用の解析ソフトSleepSignを用いて、筋電図の活動から睡眠期と覚醒期を、脳波におけるδ波、θ波の活動性からREM睡眠とnon-REM睡眠を判定した。 浸透圧ポンプ(Alzet浸透圧ポンプmodel:2001)をC57BL/6Jマウスの皮下に手術的に移植することによって、κオピオイド受容体アゴニストであるコンパウンドU69,593を1週間持続投与した。浸透圧ポンプ移植術から2日の回復期をおいたのちに5日間脳波および筋電図を記録した。脳波及び筋電図の解析から睡眠状態を評価し、溶媒を投与したコントロール群と比較を行なった。その結果、脳波記録を開始した初日から5日まで睡眠時間の低下を認め、特にnon-REM睡眠の持続時間が低下した。このことから、κオピオイド受容体の活性化は中途覚醒症状を伴って動物の睡眠を障害することが示唆された。次に、C57BL/6Jマウスの坐骨神経を結紮することによって作製した神経障害性疼痛モデルの慢性期に長時間作用型のκオピオイド受容体アンタゴニストであるnor-BNIを投与し、同様に脳波及び筋電図を記録して睡眠状態の変化を観察した。神経障害性疼痛モデルに溶媒を投与した群では総睡眠量の低下とnon-REM睡眠の持続時間の低下を認めたが、nor-BNIを投与した群はこれらの睡眠の低下を改善した。一方でnor-BNIは神経障害性疼痛モデルのREM睡眠に影響を与えなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究計画は遅滞なく遂行できており、得られた結果は概ね予想された通りである。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの実験結果は薬物の全身投与によるものであり、κオピオイド受容体アゴニストおよびアンタゴニストが睡眠に影響を与える神経学的な機序を推定することはできない。そこで今後の推進方策として、遺伝子工学的技術を組み合わせることによってκオピオイド受容体が睡眠に影響を与える神経学的な機序を解明する。第三脳室周囲に存在する室傍核は ストレスに反応し、全身のホルモン分泌を調整している神経核であり、κオピオイド受容体が豊富に発現していることがわかっている。さらに、室傍核は体内時計の中枢である視交叉上核と互いに投射があることから、睡眠覚醒サイクルにも強い関連があることが示唆される。そこで室傍核においてκオピオイド受容体が発現している神経細胞の活性をGiタンパク共役型の人工受容体を用いて制御し、睡眠状態の変化を評価する。 またκオピオイド受容体を標的としたCRISPR-CAS9 を室傍核に微量注入することによって、局所的にκオピオイド受容体をノックダウンし、神経障害性疼痛モデルの睡眠状態に与える影響を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症蔓延に伴い、海外および国内学会への参加や情報収集が十分出来なかったこと、また、実験は順調に進んでいるが、実験の回数がコロナの影響で十分に出来なかったことが影響している。今後は、活動も徐々に拡大していき、今後の実験計画に基づき、予算の執行も順調に行えるのではないかと考えている。
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