研究実績の概要 |
慢性痛患者における痛みと睡眠障害は、相互に影響を及ぼし悪循環を形成するため同時に治療することが肝要である。痛みによるストレスが精神心理的障害を引き起こす機序としてκオピオイド受容体(KOR)が重要な役割を果たしている。しかし、KORを介したストレスが睡眠に与える影響は不明である。ここまでの我々の実験結果は薬物の全身投与によるものであり、KORの応答が睡眠に影響を与える神経学的な機序を推定することはできない。そこで、我々は視床下部室傍核のKORを特異的に操作し、KOR応答が睡眠に与える影響を調査した。 【方法】以下の動物の脳波を測定し睡眠状態を評価した。①KOR発現細胞にのみCreリコンビナーゼを含有するマウス(KOR-cre)を用いて、室傍核に存在するKOR細胞に人工のGi共役型受容体(hM4Di)を発現させ、特異的リガンドであるClozapine N-oxide(CNO)によってhM4Diを刺激した。②坐骨神経結紮(PSNL)によって作成した神経障害性疼痛モデルの室傍核KORを、CRISPR-CAS9を搭載したプラスミドをマイクロインジェクションすることによってノックダウンさせた。 【結果】hM4Diによる室傍核のKOR細胞刺激によって、U69,593同様に睡眠時間は減少し、non-REM睡眠の断片化が認められた。CRISPR-CAS9による室傍核KORのノックダウンは神経障害性疼痛モデルの睡眠時間の低下を改善し、non-REM睡眠の断片化を改善した。 【結論】室傍核におけるKORの活性化は睡眠の障害に関与しており、KORの阻害は慢性痛に合併する睡眠障害を改善する可能性がある。
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